アンコールはリビングで
「……なんか、いいね」

「ん?」

「こうやって、外でのんびりするの。久しぶりな気がする」

私が言うと、彼はサングラスを外して、海を見つめたまま小さく頷いた。

「……そうだな。普段はスタジオか家か……お前も会社と家の往復だもんな」

彼は私の肩に頭を預けてきた。
重みと共に、甘えるような吐息がかかる。

「……ここなら、誰にも邪魔されねぇし。俺だけの凪を堪能できる」

「ふふ、なにそれ」

彼は私の手をブランケットの中で弄びながら、海風に吹かれる髪を指で梳いた。

波の音と、彼の鼓動の音が重なる。

ただ寄り添って、同じ景色を見ているだけ。
それなのに、どんな高級なデートよりも満たされている気がした。

「……なぁ、凪」

「んー?」

「……止まんねぇかな、時間」

「え?」

ボソリと呟かれた言葉に、私は驚いて彼を見た。
彼は海を見つめたまま、少し寂しそうに、でも優しい目で笑っていた。

「……もう少しだけ、このままでいてぇ」

彼はそう言うと、私の手をぎゅっと握りしめた。
その手のひらから、言葉にできないほどの愛しさと、ほんの少しの切なさが伝わってくる。

「……うん、そうだね」

私も彼の肩に頭を預け、その手を握り返した。

言葉はいらなかった。
同じ温度を感じているだけで、私たちは繋がっていられる。


「……そろそろ行くか。ここからが本番だぞ」

彼がニヤリと笑う。

その笑顔は、いつもの少年のような無邪気さと、大人の男の色気が混ざり合っていて、私はまたしても心臓を撃ち抜かれた。

この完璧なデートの先に、さらに大きなサプライズが待っているなんて、今の私はまだ知る由もなかった。
< 63 / 135 >

この作品をシェア

pagetop