アンコールはリビングで
「……怖かったの?」

「……いや。……ただ、疲れた……」

「そっか。……お疲れ様。えらかったね、湊」

彼女は俺の頭を、大きな子どもをあやすように、よしよし、と何度も撫で回した。

普段なら「子ども扱いすんな」と憎まれ口を叩くところだが、今はその手のひらの温度が心地よくて、どうしても離れることができなかった。

この、ふとした瞬間の柔らかい笑顔。
包み込むような相槌の打ち方。そこにいるだけで空気がホッとする温度感。

14歳の時に喪った、母・紗希子の陽だまりのような面影。

俺はずっと無意識のうちに、凪の纏うこの絶対的な安心感に、母の温もりを重ねていたのだと、今ははっきりと自覚できる。

俺の頬を、一筋だけ熱いものが伝って、彼女の着ている服の肩口へと吸い込まれていった。

「……っ」

「あ、泣いてる」

「……泣いてねぇし」

「ふふ、はいはい。泣いてないね。……よしよし」

強がる俺の言葉に、凪はクスクスと笑いながら、俺をさらに強く抱きしめ返してくれた。

俺は大型犬のように彼女にのしかかったまま、その優しい温もりに顔を擦り付けた。

< 633 / 796 >

この作品をシェア

pagetop