アンコールはリビングで
「……うるせぇ。見んなって」

「ふふ。でも、いい顔してる。……憑き物が落ちたみたい」

彼女の冷たい指先が、熱を持った俺の瞼を優しくなぞる。
そのタッチがあまりに優しくて、労りに満ちていて、俺はまた不覚にも泣きそうになった。

「……なぁ、凪」

「ん?」

「……俺、もう何もないぞ」

俺は、天井を見つめながらポツリとこぼした。

「エリートの肩書きも、高いスーツも、親のバックアップも。……全部、置いてきた。今の俺にあるのは、ギターと、凪だけだ」

俺が自嘲気味に、掠れた声で言うと。
凪はきょとんと目を丸くして、それから呆れたように、けれどひだまりのように温かく笑った。

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