アンコールはリビングで
2. 秘密の仕掛けと、熱を帯びる体温

湊は私にくっついたまま、甘えるように私の首元に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。

「……あー、やっぱ凪の匂い嗅ぐと落ち着く……」

「ちょ、ちょっと湊、くすぐったいよ……。今、真面目な話してたんでしょ?」

「してるよ。すげぇ真面目に、俺の音楽と凪の話をしてる」

彼は顔を上げないまま、私の鎖骨のあたりに唇を落とし、低い声で続けた。

「『Sanctuary』のAメロ。……『鳴り止まない雑音の波に 耳を塞いで沈み込む』って歌詞から始まるだろ?」

ちゅ、と、今度は少しだけ場所をずらして、首筋に熱いキスが落とされる。

「あれは、親父のプレッシャーとか、世間の評価とか、どうでもいいノイズに塗れて息苦しかった頃の俺」

彼の吐息が直接肌に触れ、ゾクゾクと背筋が震える。
私は必死に平常心を保とうとしながら、彼の言葉に耳を傾けた。

「でも、Bメロで『ひび割れた世界に 落ちた一滴の光』が射す。……凪のことだ」

湊はそこでようやく顔を上げると、愛おしそうに私の頬を片手で包み込んだ。

「完璧な輪郭なんてなくていい、ただ汚れなきままに呼吸がしたかった俺を、凪がそっと解いてくれた」

「……湊……」

だめだ。
湊の声が、体温が、触れる唇の感触が甘すぎて、真面目な曲の解説のはずなのに、頭の中が少しずつ白く溶けていく。

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