アンコールはリビングで
「そして……Cメロ。凪、あそこの歌詞、覚えてる?」

湊が不意に顔を上げ、至近距離で私の瞳を見つめた。
その目には、さっきまでの甘えん坊な彼とは違う、少しだけ挑発的で、大人の男を匂わせる強い光が宿っていた。

「えっと……『吹き荒ぶ嵐も やがて穏やかに……』」

「そう。『穏やかに、凪いでゆく』」

湊の口から、私の名前と同じ音が紡がれる。
彼がわざと『凪』という言葉を強調して発音したことに気づき、私はハッとして息を呑んだ。

「……っ、まさか……」

「誰も気づいてねぇけど。俺のファンも、音楽評論家も、全員スルーしてるけど」

湊は私の頬を片手でそっと包み込み、親指で唇の端を優しく撫でた。

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