アンコールはリビングで
『辿り着く 名前も持たない あの場所へ』

空気を震わせる、圧倒的で、どこまでも深く甘い歌声。

アコースティックギターの柔らかな音色に乗って、彼の声がリビングの壁に、床に、そして私の心の最も柔らかい部分に染み込んでいく。

『重たい鎧を 脱ぎ捨てて
震えるこの魂が 息を吹き返す』

あの非常階段で、初めて彼の歌声を聴いた夜の記憶が鮮明に蘇る。
あの時、孤独だった彼の声に惹かれ、手を伸ばしたのは私だった。

でも今は違う。
彼はもう孤独じゃない。
彼が歌うその先には、必ず私がいる。

『ただ深く 静かなる Sanctuary』

サビの最後のフレーズを歌い上げ、湊の指がギターのボディを軽く叩く。

トン、というパーカッシブな音が響き、それが合図だったかのように、リビングには再び深い静寂が舞い降りた。

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