アンコールはリビングで
「……ふぅ」

帽子もメガネもマスクもない、素顔の早瀬湊。

彼が窓際に立ち、眼下に広がる光の海を見下ろしている。
ただそれだけで、映画のワンシーンのように絵になっていた。

上機嫌なのか、微かに鼻歌まで聞こえてくる。

(……まぶしっ。夜なのに直視できない……!)

音楽の神様に愛された男が、夜景を背負って立っている。その神々しさに、私は思わず目を細めた。

すると、視線に気づいた彼が振り返った。

「ん? どうした? 疲れたか?」

「いや、違うの。夜景を背にする湊が神々しくってね。見惚れてたわけ」

私が正直に白状すると、彼は「っは、なんだそれ」と呆れつつも、嬉しそうに口角を上げた。

「んだよ。心配して損したわ。……ここの夜景、すげぇよな。前から凪と観たいって思ってたんだよ」

照れることもなく、真っ直ぐな瞳でそう言われる。

その純粋な好意に、私の胸がキュッとなる。

(……スターの湊も、毛玉スウェットの湊も、中身は一緒だよね)

何、今更差を感じてたんだか。
この完璧な男性の、寝癖がついた素顔を知っているのは、世界で私だけなのだ。

私はその優越感を噛み締め、このひと時を最大限楽しむことに決めた。

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