アンコールはリビングで
「……このアルバムの最後の曲、『再演 (Encore)』ってつけた理由、分かるか?」

私を抱きしめたまま、湊が優しく問う。
私は彼の胸に顔を埋めたまま、小さく首を横に振った。

「ライブが終わって、アンコールを終えて、幕が下りた後。……華やかなステージから降りた俺が、最後に帰ってくる場所は、いつだってここだからだ」

彼の手が、私の背中を包み込む。

「外の世界でどんなに戦っても。命が続く限り、俺の本当の『アンコール』は、凪のいるこのリビングでしか鳴らない。……そういう意味」

「……っ、湊……大好き……っ」

私は堪えきれず、彼の背中に腕を回し、力一杯しがみついた。

湊は私の言葉に喉の奥で低く笑うと、私の顔を両手で包み込み、ゆっくりと上を向かせた。

「俺も。愛してる、凪」

重なった唇から、彼がさっきまで歌っていた熱が伝わってくる。

涙で濡れた頬を彼の親指が優しく拭い、そのまま何度も、何度も、角度を変えて深いキスを落とされる。

これから始まる過酷なツアー。
彼を取り巻く熱狂と喧騒。

でも、もう何も怖くない。

だって、どんなに遠くへ行っても、彼が最後に帰ってくる場所は、私と彼が共に呼吸をするこの場所――このリビングなのだから。

窓の外では、夏前の静かな夜風が吹いている。

私たちの『聖域』で、優しくて甘い、終わらないアンコールの夜が続いていた。
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