アンコールはリビングで
2. 昼下がりの公共電波

翌日の昼休み。
私が職場の自席でお弁当を広げていると、斜め向かいのデスクから、後輩の女の子たちの興奮しきった声が飛び込んできた。

「ねえ! 今日の日付変わった瞬間に出た、早瀬湊の新曲聴いた!?」

「聴きました! 『Melt』ヤバくないですか!? 今までの『Sanctuary』の神聖な感じとは全然違って、なんかもう……色気がダダ漏れっていうか!」

「分かる! あんなハスキーな低音、耳元で歌われたら、全人類ドロドロに溶けちゃうよね……マジで罪深いわ〜!」

キャーキャーと身悶えしながら盛り上がる後輩たちの会話に、私は思わずお弁当のおかずを摘む手を止めた。

(全人類を溶かす、罪深い男……か)

彼女たちが熱狂しているその『罪深い男』が、たった十数時間前、「一番最高だわ」と甘えた声で首筋にすり寄ってきて、静かに祝杯をあげていたのだと知ったら、一体どうなるだろう。

『やっぱり早瀬くんって最高!』と熱弁を振るう後輩たちの声に、私は心の中で(ふふ、でしょ?)と密かに優越感を抱く。

けれど、私だけに見せるあの無防備な甘え顔や、広い背中の温もりを不意に思い出してしまい、私は顔が熱くなるのを必死に堪えなければならなかった。

平静を装ってお弁当を急いで食べ終えると、私はデスクの下でこっそりスマホを取り出し、ワイヤレスイヤホンを耳に装着した。

ラジオの生放送アプリを開くと、ちょうどテンションの高い有名DJの声が飛び込んできた。

< 665 / 796 >

この作品をシェア

pagetop