アンコールはリビングで

Side B 境界線が溶ける夜

1. 凍てつく冬の夜と、降りてこないコード

アルバム『Sanctuary』のリリースを目前に控えた、1月初旬のひどく冷え込む日曜日の深夜。

静寂に包まれたリビングで、俺は愛用のアコースティックギターを抱え、ソファに深く腰を沈めていた。

「……っ、違う。ここからサビへの繋ぎ……もっとこう、重くて、沈み込むような……」

ジャラン、と弦を弾く音が、少しの苛立ちを帯びて部屋に響く。

アルバムのプロモーションと並行して、すでに俺の頭の中は、6月にリリース予定の新しいシングルの制作へと向かっていた。

だが、その新曲の肝となるギターのフレーズと、ベースラインのグルーヴ感が、どうしても指先とリンクしてくれない。

明日は月曜日だ。
当然、凪も朝から仕事がある。

本当ならもうベッドに入っていなければならない時間なのに、彼女はダイニングテーブルで温かいハーブティーを飲みながら、俺の作業を静かに見守ってくれていた。

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