アンコールはリビングで
「……湊、大丈夫? コーヒー淹れ直そうか?」

凪の気遣うような声に、俺はギターのネックから左手を離し、疲れた首を回した。

一日中作曲に没頭していたせいで、目も肩も限界に近い。
だが、あと一歩、あとほんの少しで、何かが掴めそうな予感だけがずっと頭の中で燻っていた。

「んーん、大丈夫。……ごめん、凪。明日も仕事なのに、付き合わせちまって」

「ううん。でも、私もそろそろ限界かも……。湊も、あんまり無理しないでね?」

凪が立ち上がってカップを片付ける。
その少し眠たげな顔を見て、俺は胸の奥がキュッと締め付けられるような申し訳なさと、どうしようもない愛おしさを感じた。

「分かった。俺もこれ、もう少しだけやったら切り上げるわ。……先寝てろ。おやすみ、凪」

「うん。おやすみ」

凪が俺の頬にチュッと軽いキスを落とし、一足先に寝室へと向かう。

パタン、とドアが閉まる音。

壁の向こうから聞こえる微かな物音が消え、完全に静まり返ったリビングで、俺は再びギターと向き直った。

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