アンコールはリビングで
4. 助手席のジレンマ

「……凪」

「は、はいっ!?」

不意に名前を呼ばれ、変な声が出てしまった。

「……どうした? さっきからずっと外ばっか見てんな。……そんなに夜景観るの、珍しいか?」

彼がハンドルを操作しながら、少しだけこちらに顔を向ける。

気怠げな、琥珀色の流し目。

……確信犯だ。
絶対に、私が彼のビジュアルと密室の空気に当てられて緊張していることに気づいて、わざと色気を振り撒いている。

「い、いや別に珍しくはないけど……! 海も夜景も綺麗だなぁって……」

「ふーん。……でも、俺のことは一回も見てくれねぇのな」

彼が、わざとらしく拗ねたような、低く甘い声を出す。

ズルい。
そんな言い方されたら、見ないわけにいかないじゃないか。

私は恐る恐る、チラリと横目で彼を見た。

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