アンコールはリビングで
「湊……」

「……凪、一つだけ、約束してくれ。……俺がステージでどれだけ神様だの何だの言われても、俺をただの『早瀬湊』に戻せるのは、凪だけだって忘れるな」

首筋に顔を埋めたまま、彼が切実な声で告げる。

「分かってるよ。……私は、東京ドームの最終日まで、ずっと湊のアンコールを待ってるから。……美味しいご飯作って、お風呂沸かして、最高の『ただいま』を言わせてあげる」

「……ああ。……敵わねぇな、本当」

湊はふっと力を抜いて笑うと、顔を上げ、私の額にコツンと自分の額を合わせた。

「……今回のツアー、絶対に最高のステージにしてやる。お前の自慢の男が、日本中を黙らせてくるところ、最終日の特等席で見てろよ」

「楽しみにしてる。……愛してるよ、湊」

「……俺もだ。死ぬほど愛してる」

そして、誓いを立てるように、再び最も深く、とろけるような口付けを落とした。

初夏の夜風が吹く外の世界とは対照的に、密室の車内は、お互いの体温と愛おしさで限界まで満たされていた。

長い、長いツアーが始まろうとしている。

けれど、その先に待っている『本当のアンコール』を信じて。

私たちは今、この静かな夜を心に刻み込んでいた
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