アンコールはリビングで
朝食を終え、手早く身支度を整えた湊が玄関へと向かう。
今日は彼も島崎さんと空港で直接落ち合う予定らしく、エントランスにはすでに手配したタクシーが待っているはずだ。

「じゃあ、行ってくる」

「うん。忘れ物ない? ……いよいよツアーだね。体に気をつけて、思いっきり楽しんできてね」

私は寂しさを隠して、できるだけ明るい声で彼に笑いかけた。

「私はこのリビングで待ってるし、心はいつも湊と一緒にいるから。……あ、でもね」

私は少しだけ背伸びをして、彼のシャツの胸元を軽く掴んだ。

「最終日の東京ドームは、絶対に行くから。自他共に認める、早瀬湊の『一番のファン』として、すっごく楽しみにしてるからね。……最高の景色、見せてね?」

私の言葉に、湊は少しだけ目を細め、玄関の土間に降りる前に、私をギュッと強く抱きしめた。

彼の大きな身体の温もりと、ウッディーアンバーの香りが、私をすっぽりと包み込む。

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