アンコールはリビングで
「……マジか。一緒に朝メシ食うつもりだったのに」

「ふふ、いいの。湊、ライブの疲れと……昨日の疲れで、ボロボロでしょ? ここでゆっくり寝てて」

不甲斐なさから、俺は少しだけ顔を歪めた。
本当は玄関までちゃんと見送りたかったのに、身体が思うように動かない。

立ち上がろうとした凪の細い手首を、俺は咄嗟に掴んだ。
そして、そのまま彼女の首の後ろに腕を回し、ぐっと自分の方へと引き寄せる。

「……湊っ」

「……無理すんなよ、凪。仕事、気をつけて行けよ」

驚いて目を丸くする凪の唇に、深く、甘いキスを落とした。名残惜しそうに唇を離すと、凪は顔を真っ赤にして「うん……いってきます」と小さく呟き、足早に寝室を出て行った。
バタン、と玄関のドアが閉まる音が聞こえる。

凪が出ていって静かになった寝室で、俺は自分の隣の空いたスペースに顔を埋めた。

シーツに残った凪の甘く落ち着く石鹸のような匂いを胸いっぱいに吸い込むと、抗えない睡魔が再び俺を深い微睡みの中へと引きずり込んでいった。

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