アンコールはリビングで
午後1時。
俺は都内にある、長年信頼しているスポーツトレーナーの治療院にいた。

「早瀬さん、右の肩甲骨周り、かなり張ってますね。福岡、相当力んだでしょう」

「そうですね、まあ、ツアー初回だったので……」

うつ伏せになり、深い指圧とストレッチを受ける。

ドームという広大な空間で、五万人の視線を一身に浴びてギターを掻き鳴らし、歌う。
その代償として、俺の身体は悲鳴を上げていた。

筋肉の癒着を剥がすような激痛が走るが、それを耐えなければ、今週末の大阪公演を戦い抜くことはできない。

一時間の整体とマッサージを終え、次に向かったのはスタジオだった。

ボイストレーニング。
喉も一つの楽器であり、筋肉だ。

「福岡での録音、聴きましたよ。後半少しだけエッジが強くなりすぎてます。大阪に向けて、もう少し喉をリラックスさせるポジションを確認しましょう」

ピアノの音に合わせて、一音一音、声の響きを確認していく。
スターだの神だの言われても、結局はこういう地道な作業の積み重ねだ。

大阪のドームでも、最高の歌を響かせるために。
俺は何度も声を出し、感覚を研ぎ澄ませた。

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