アンコールはリビングで
朝食を済ませ、私たちは珍しく同じ時間に家を出ることになった。

湊は島崎さんの送迎車、私は電車。
エレベーターまでは一緒にいられるが、パパラッチ対策のため、エントランスから二人で出ることはない。

先に降りて車に向かうのは、湊だ。
エレベーターの中、湊は扉のすぐ前に立ち、私はその一歩後ろに立つ。
監視カメラがあるかもしれないし、いつ扉が開くかわからない。
密室であっても、私たちは一定の距離を保つ。

けれど。
一階に到着し、扉が開く直前。

湊は前を向いたまま、振り返りもせずに、背後にある私の右手を大きな手でギュッと包み込んだ。

「……っ」

驚いて繋いだ手を見つめると、彼の体温が指先から心臓へと直接流れ込んでくる。

人目が気になるはずのこの場所で、彼が見せてくれた精一杯の「甘え」と「誠実さ」。

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