アンコールはリビングで
「分かってるよ。早瀬くんがその日中に済ませたい仕事は、全部夕方までに詰め込んだからね。その後は……君の希望通り、完全にオフにしてあるよ」
「……ありがとうございます。助かります」
彼は小さく息を吐き出し、誰にも聞こえないような小声で、ぽつりとこぼした。
「……早く帰って、凪に会いたいです。ちょっと……充電が切れそうなんで」
三日間という、ツアーの中では決して長くない不在。
それでも、あんなに丁寧で、ファンに対して完璧なステージを作り上げるトップアーティストが、今はただ愛する女性の顔を見て、彼女の体温に触れることだけを何よりも切実に求めている。
搭乗ゲートへ向かう列の中を歩きながら、彼は幾度となく、左手首のプラチナのバングルに右手の指先を這わせていた。
それは、今年の記念日に彼が彼女へ贈り、そして自分も身に着けている、二人を繋ぐ大切な印。
離れていても彼女の存在を確かに感じられるその特別なアイテムに、彼は無意識のうちに何度も触れ、愛おしむようにそっと撫でている。
彼がいかに凪さんという存在を大切に想っているかが、その静かな仕草から痛いほどに伝わってきた。
飛行機が離陸し、厚い雲を抜けて安定飛行に入る。
早瀬くんは窓の外を見つめたまま、一言も発さなくなった。
彼が今、心の中で彼女の名前を何度呼んでいるのか。
明後日に迫った、三十歳を迎える六月十日の誕生日に、彼らはあの特別なリビングで、一体どんな風に過ごすのだろうか。
俺は隣で、彼が昨夜のライブの極度の疲労から、少しでも眠りに落ちてくれることを願った。
だが、結局彼は羽田空港に着陸するまで、一度も目を閉じることはなかった。
その目は、雲の眼下に広がる景色の中から、ただひたすらに、凪さんの待つ方角だけを見つめ続けていたのだ。
「……ありがとうございます。助かります」
彼は小さく息を吐き出し、誰にも聞こえないような小声で、ぽつりとこぼした。
「……早く帰って、凪に会いたいです。ちょっと……充電が切れそうなんで」
三日間という、ツアーの中では決して長くない不在。
それでも、あんなに丁寧で、ファンに対して完璧なステージを作り上げるトップアーティストが、今はただ愛する女性の顔を見て、彼女の体温に触れることだけを何よりも切実に求めている。
搭乗ゲートへ向かう列の中を歩きながら、彼は幾度となく、左手首のプラチナのバングルに右手の指先を這わせていた。
それは、今年の記念日に彼が彼女へ贈り、そして自分も身に着けている、二人を繋ぐ大切な印。
離れていても彼女の存在を確かに感じられるその特別なアイテムに、彼は無意識のうちに何度も触れ、愛おしむようにそっと撫でている。
彼がいかに凪さんという存在を大切に想っているかが、その静かな仕草から痛いほどに伝わってきた。
飛行機が離陸し、厚い雲を抜けて安定飛行に入る。
早瀬くんは窓の外を見つめたまま、一言も発さなくなった。
彼が今、心の中で彼女の名前を何度呼んでいるのか。
明後日に迫った、三十歳を迎える六月十日の誕生日に、彼らはあの特別なリビングで、一体どんな風に過ごすのだろうか。
俺は隣で、彼が昨夜のライブの極度の疲労から、少しでも眠りに落ちてくれることを願った。
だが、結局彼は羽田空港に着陸するまで、一度も目を閉じることはなかった。
その目は、雲の眼下に広がる景色の中から、ただひたすらに、凪さんの待つ方角だけを見つめ続けていたのだ。