アンコールはリビングで
バタン、と静かにドアが閉まる。
スモークガラスの向こうに隠れたその背中は、洗練されたスターのオーラを纏いながらも、間違いなく「凪さんに一秒でも早く会いたい」という、一人の男としての純粋な愛情と焦燥感に突き動かされていた。

俺は、走り去っていくタクシーのテールランプを見送りながら、ふぅっと長く息を吐き出した。

早瀬湊というアーティストは、水沢凪という存在があるからこそ、あそこまで美しく、そして危うく輝けるのだ。

彼女が彼の帰る場所である『聖域』を守り、彼を無条件で包み込むことで、彼の音楽はこれまで以上に、聴く者の魂の深い部分をえぐり、優しく揺さぶるようになった。

鋭いファンたちが予感した「特定のミューズ」の影。
それは、これからもっと色濃く、彼の歌に乗って世界へ放たれていくだろう。

いつか、遠くない未来に、彼が自らの口でその真実をファンに打ち明ける日が来るまでは、この熱狂の奥にある深い秘密は、誰にも知られることはない。

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