アンコールはリビングで
「そうですね……。もちろん、歌手として今よりもっと上を目指すのは当然ですが」

彼は一度言葉を切ると、愛おしそうに自身の左手首のバングルにそっと触れた。

「……俺をただの一人の人間として繋ぎ止めてくれる『場所』を、これまで以上に大切に守り抜きたいと思っています」

少しだけ声を落とし、彼はバックミラー越しに俺に向けて、まっすぐで誠実な視線を返してくる。

「……俺の人生の中でも、今年が一番重要な年になるだろうなって、そう思ってますから」

「……重要な年、か。頼もしいね。期待してるよ」

車が滑らかに走る中、俺は静かに前を見据えた。

きっと、きっちりと社会常識があって礼儀正しい彼のことだ。
然るべきタイミングが来れば、ちゃんとした形で俺にも報告をくれるのだろう。

俺は早瀬湊のマネージャーだ。
けれど、それ以上に、一人の青年としての早瀬くん個人が、心から幸せになってほしいと心底願っている。

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