アンコールはリビングで
(……この曲、ファンは「芸術的な解放」だと思ってるだろうが。……実際は、ただの「凪さんへの甘え」なんだよな)

俺は舞台袖で、苦笑いを隠せなかった。
特定のミューズへの執着を、これほどまでの芸術に昇華させてしまう。

それこそが、アーティスト・早瀬湊の恐ろしさであり、美しさだ。

二日間の宮城公演を終え、最後の曲の残響が消える。

ステージから降りてきた彼は、スタッフからのタオルを受け取りながら、俺に向かって不敵に笑ってみせた。

「……島崎さん。次はいよいよ、東京ですね」

「そうだね。……君の帰る場所まで、あともう少しだ」

俺の言葉に、彼は短く「はい」と応え、左手首のバングルを愛おしそうに撫でた。

その瞳には、もう「神様」の仮面など必要ないほど、愛する人に守られた男の、絶対的な強さが宿っていた。

俺は、宮城の澄んだ夜空を見上げながら、初夏の風を深く吸い込んだ。

一人の音楽ファンとして。
そして、彼の守護者として。

東京ドームという、このツアー最高のステージで、彼が最後にどんな「アンコール」を響かせるのか。

その瞬間を見届けるのが、今から楽しみで仕方がない。
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