アンコールはリビングで
5. 19時の不審者

19時きっかり。
私はキーボードを叩く手を止め、パソコンをパタンと閉じた。

「お先に失礼します!」

誰かに呼び止められる前に、逃げるようにオフィスを出る。
外はもう完全に夜だった。冷たい風が、仕事で火照った頭を冷やしてくれる。

早く帰ろう。早くあの家に。彼が待つ場所に。

駅へと続く大通りではなく、少し近道の路地へ入ろうとした時だった。
街灯の薄明かりの下、植え込みの影に佇む、やけにスタイルの良い人影が目に入った。

怪しい。

黒い帽子に黒いマスク、黒縁メガネ。
冬の夜にしても、全身黒ずくめで、完全に不審者スタイルだ。

けれど、その立ち姿には隠しきれない気品があった。
長い手足、小さな顔、ポケットに手を突っ込んで壁に寄りかかる重心の置き方。
全身黒で覆っていても、滲み出るようなスタイルの良さが、彼を周囲の闇から浮き立たせている。

(……え?)

目を疑った。まさか、そんなはずはない。
私は恐る恐る近づき、小声でその名を呼んだ。

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