アンコールはリビングで
「……えっ、み、湊……っ?!」

私が声をかけると、彼はビクリともせず、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。

そして私を認めると、ポケットに手を突っ込んだまま、余裕ぶった足取りで歩み寄ってくる。
マスク越しでも分かるくらい、その目尻は緩みきっていた。

「おう。……驚いたか?」

私の前で足を止め、マスクを少しずらす。

そこには、私が世界で一番好きな笑顔があった。
テレビで見せるような決め顔じゃない。もっと自然で、飾らなくて、それでいて心臓が跳ねるほど爽やかな、私だけの笑顔。

不意打ちの美貌に、私は一瞬言葉を失って見惚れてしまった。

「ど、どうしてここに!? 打ち合わせは!?」

「夕方に終わったんだよ。だから……迎えに来てみた」

彼はマスク越しに鼻の頭をポリポリとかきながら、少し照れくさそうに視線を逸らした。

「お前が毎日どんなとこ歩いてんのかなーって思ってさ。……つーか、まあ。俺も……凪に早く会いたかったし」

「……っ」

ぶっきらぼうに紡がれた言葉の破壊力に、仕事の疲れが一瞬で吹き飛ぶのを感じた。
嬉しい。嬉しすぎる。

思わず彼に抱きつきたくなる衝動を抑え、私は肘で彼の脇腹を軽く小突いた。

「もう……バカじゃないの? わざわざこんなとこまで」

「痛っ。……照れんなよ」

二人は顔を見合わせて笑い合った。
けれど次の瞬間、私はハッとして周囲を見回した。

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