アンコールはリビングで
2. 境界線のドアと、日常へのスイッチ

やがて最寄り駅に着き、初夏の少し湿った夜風を感じながらマンションへと歩く。

エレベーターを降りて、静まり返った廊下を進み、見慣れた自室のドアの前に立った。

私はそこで一度、深呼吸をした。

冷たくて重厚な、玄関のドア。

(――神様の時間は、ここまで)

このドアの外側の世界で、彼がどれだけ「神様」として崇められていても。

一ヶ月弱のツアーを走り抜き、限界を超えて戦い抜いた彼は、もうすぐすべてを出し尽くして帰ってくる。

ガチャリ、と鍵を開け、静かな玄関に入る。

ドアを閉めた瞬間、そこはもう熱狂のドームでも、歓声が渦巻く客席でもない。

私と彼だけの、不可侵の『聖域』だ。

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