アンコールはリビングで
「……あー、本当に。ツアー、終わっちまったんだな……」

彼の吐息が、微かな感傷を帯びて私の前髪を揺らす。

五万人を熱狂させたステージから降りて、すべてを終えた彼の中に訪れた、祭りの後のような静かな余韻。

「お疲れ様。……長いようで、あっという間の一ヶ月だったね」

私が、頬に添えられた彼の手を自分の手で包み込むようにして言うと。

湊は少しだけ顔を近づけ、私の頬に、チュッ、と柔らかく優しいキスを落とした。

「ほんとな。あんなに長ぇと思ってたのに……いざ終わると、寂しいもんだわ」

センチメンタルな感情を隠そうともせず、ぽつりとこぼす湊。

常に完璧な神様として先頭を走り続けてきた彼が、こんな風に無防備に寂しさを口にするのは珍しかった。

私はなんだか、彼の心の中にぽっかりと空いてしまった虚無感のようなものを感じて、たまらなく愛おしくなった。

< 903 / 910 >

この作品をシェア

pagetop