アンコールはリビングで
4. 別世界への入場

凪の水着と俺のスイムショーツの会計を済ませ、俺たちはホテルの奥にある専用エレベーターへと向かった。

受付で名前を告げ、コンシェルジュの案内で重厚な扉を抜ける。

その瞬間、むわっとした夏の夜の熱気と、プールの水が放つ塩素の匂い、そして微かに混ざるココナッツのような甘い香りが、一気に全身を包み込んだ。

「うわぁ……」

凪が、感嘆の声を漏らす。

目の前に広がっていたのは、うだるような暑さを忘れさせる、極上の非日常空間だった。

ライトアップされた水面が、ゆらゆらと青い光を反射している。

流れているのは、心臓の鼓動に心地よく響く、静かで洗練されたラウンジミュージック。

周囲には、カクテルグラスを傾ける数組の大人たちの姿があるが、皆それぞれの世界に没頭しており、不躾な視線を送ってくるような無粋な人間は一人もいない。

< 998 / 1,000 >

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