ドア開けたら元カレが寝てた

すっかりお昼前になり、窓から鋭い日差しが入り始めたころ。

私は小さなキッチンに立ち、せっせと遅めの朝ごはんの支度を始める。

颯也には、そこらへんの床で抱き枕と一緒に静かにしてもらうことにした。

「優里ー、俺が朝ごはんつくろうかぁ?」

「いきなり、そんなのさせるわけないでしょ。ってか料理できるの、あーた?」

「…………これから頑張るって」

ね、とお茶目に舌をだす颯也。
ね、じゃねぇんだよ。

「それに、一応怪我人なんだからじっとしてなさい」

「うーす……」

そう、忘れちゃいけない。
颯也は怪我人なのだ。

腕にはちゃんと包帯巻いてるし、そこら中ガーゼで手当してある。
普通、寝込んでもおかしくないぐらいの傷の多さだ。

「とりあえず、家事はまたやってもらうし。今はじっとしてて」

ちなみに、私が今作っているのは目玉焼きで今朝はトーストに乗せるつもりでいる。
いつもはレトルトとかゼリーで済ませることが多いけど、せっかくだしちゃんとしたものをつくってあげることにしたのだ。

「ねぇ、いつも優里は暇なとき何してるの」

「暇なとき……か。んー…、毎日仕事忙しいし、日曜日は一日中寝っぱなしかな」

「つまんなっ」

颯也はゲッと毛玉を吐き出す猫のような顔をする。
つまらなくて悪かったな。

「そういうアンタはどうなのよ」

「え〜…、んまぁ大体競馬かパチンコかな」

「クズじゃねぇか」

「いや、意外と暇つぶしには丁度良いのよ。競馬場とかも油断してなきゃまずスられることはないし」

「スられるって……」

私も行ったことがないわけじゃないけど、好き好んで行くほど居心地は良いように思えなかったけどなぁ。

言い淀む私を見かねたのか。

「今度連れていこうか?」

颯也がそんなことを言ってくる。

「いいってそんなの。私はここにあなたをかくまって、あなたは暇なときに家事をする、ただそれだけの関係。むしろそれ以上は迷惑だから」

少し冷たく言ってしまったかもしれない。

いや、むしろこっちの方がいいか。
変にトラブルに巻き込まれても困るし。

「んぇ〜ん゙〜……ぇえ〜? そぉ〜?」

すごく不機嫌そうだ。

しかし颯也の方を決して向いてはいけない。
向いたら最後、私は颯也に弱いからなんやかんやで押し切られてしまう。

「優里は、薄々気づいてるかもだけどさ。俺高校卒業してからさ、……優里と別れてから今まであんまり人に言えないような仕事してきて思ったんだよね」

食パンをパン焼き機にセットしながら、私は静かに耳を傾けていた。

「優里みたいな、信用できる人ってすごく大事なんだなって。当たり前かもだけど、安心できる場所ってすっごく大事だなって。それで、そんなこと考えながら一日中ぼーっとしてたら仕事でちょっと油断しちゃってさ。……気づいたら優里の住んでるマンションの前まで来てたんだよね」

チン、とパンの焼けた音がした。

そっか、と私は相槌をうつ。

理由は訊かない。
きっと色々あったんだろう。

颯也が暫くしてうんと答えた。

「……せっかくだし、朝ごはんの用意手伝ってくれない?」

「え、いーの? マジか!やるやる!」

言った瞬間、嵐のようなスピードで颯也が私の目の前にやってきた。

そのスピードはどこから来てるんだろうか。

「皿どこ?」

「あー…そこの二段目の引き出しから二皿取って」

「おっけー」

ガチャッ、バッッシャァァァンッッ。

……颯也が来てから、嫌な予感がしてばっかりだ。

「あー…Im sorry…?」

「ごめんもうじっとしてて」

これからの生活がとても不安になった朝だった。



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