08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~
EP20 衝撃報道
成人式から数か月後。リージョンC、N市。
マシューが今日も爽やかな朝を知らせてくれる。
このマシューとはユイの携帯端末を管理しているサポートAIだ。
まるで兄のように、相棒のように。
日常の雑務を全てサポートしてくれるそんな、頼もしい存在。
聞きなれた成人男性のような低音ボイスが、今日もユイに安心をくれる。
ユイは学生を卒業し、今は就いた仕事にも余裕が出てきた。
大きく伸びをして、ユイはマシューに朝の挨拶を返す。
いつものモーニング。ルーティンが始まる。
トミオが使っていた端末でニュースを確認後、青紫色の鉢植えの花に水をやる。
キッチンに向かって茹で卵を作っている時。
『電撃ニュース! 男性アイドルユニット”RARUTO”のリーダー、ラウルが結婚!』という見出しが飛び込んでくる。
「え! ……うそでしょ!」
RARUTOのラウルは、長年にわたって推してきた存在だ。
3人のなかでも特に魅惑的な声を持つ彼は、最も人気が高い。
ちなみに祖母のリエはピアニストのトミーを推していた。
トミーは若い頃の祖父によく似ていたのだとか。
「え、しかもお相手って一般女性!? なにそれ羨ましすぎる……」
肩からキャミソールワンピの紐がずれ落ちる。
それも放置したままユイは、がっくりと項垂れた。
「ユイ、卵が鍋から飛び跳ねてるぞ」
見かねたマシューが、音量を上げてユイに知らせる。
それで現実にもどったユイは、沸騰し放題だった鍋の火力を消す。
茹ですぎた卵は酷く硬い。
ショックが大きく心ここにあらずなユイ。
部屋のあちこちに飾ってあるラウルのグッズを見て、ユイは深いため息を漏らした。
ー※ー
「でさ、今回の合コンはなかなかイケメン揃いなんだけど、どう?」
ユイがいるのは人気のカフェ。
一緒のレイラは端末をみながらユイをパーティに誘う。
揺れる金色の髪、キラキラしたアイスブルーの瞳。レイラは今日もキレイだ。
そんなレイラがイケメン揃いというのだから、本当に魅力的な男性ばかりなのだろう。
「レイラってば、一体何人の恋人を作れば気が済むの? 一人で良いでしょ?」
「ちょっと! 私の恋人は常に一人で、今はフリーなんだけど!」
「じゃあ、成人式の時に出会った“運命の”彼は?」
「あー、それね。……なんかさ……勘違いだったんだよね」
サラリと視線を外す、レイラ。
ようは飽きてしまったということか。
(なんてこと。何かの勘違いでまた次って……。)
「私はラウルの結婚で、なんていうかもう、絶望なのよ」
「全然そうは見えないけど?」
レイラのするどい指摘にユイは沈黙する。
「ん〜〜、とにかくそんな気分じゃないし、こんな気持ちで参加するのは……ちょっと迷惑だと思う」
ユイは甘いコーヒーを一口飲む。
嘘は言っていない。
「ふうん。……そういうところ、トミオさんとそっくりだよね」
「そういうレイラを見てると、アレンさんの若い頃を想像しちゃうよ」
「ははっ、そう来るか~!」
レイラがやられた、と言わんばかりに笑う。
(……でも、気分転換して欲しいとは思ってるんだろう)
小声でユイはありがとう、と呟いた。
携帯端末に付けた小さな四葉のクローバーのチャームが目に入る。
それは店内の照明の光を受けて僅かに輝く。
それは彼女の微笑みに似ていると、ユイは一瞬思った。
なにかを思い出しかけたような気がした。
しかしすぐにユイは気のせいと判断し、それ以上考えるのをやめた。
ー※ー
スーパーでお酒を購入し、キッチンで料理をしながらグイッとあおる。
今日作るのはトミオが大好きだった炒め物だ。
意外と肉派なトミオのために、リエがよく作ってくれたもの。
そう言えばサツキも作ってくれたことがあった。
「料理はそこそこ上達したと思うけど、食べてくれる人がいないのも寂しいよね」
「本当に上達したのかどうかは分からないと思うぞ?」
携帯端末の画面にいるマシューが声を掛ける。
「調味料をボトルから直接足すのはちょっと雑過ぎないか?」
「う……」
ユイは引き出しから計量スプーンを取り出し、丁寧に調味料を量る。
(面倒だなぁ。でも……マシューの言ってることは正しい)
「マシュー。やっぱりパーティに行くべきだったかな?」
「行きたかったのか?」
「……ううん」
「決断するのはユイだが、パーティに参加すれば推しに似た人を探せたかもしれない」
「それはダメ。それは美しくない!」
酔いが回って来たのか、ユイが饒舌になる。
「推しは推しだから尊いの。たとえどんなに推しに似ていても、それは推しじゃない!」
「そういうものか? ふむ、記憶しておこう」
「くぅぅぅ……。推しの幸せを素直に喜べないなんて……私ってダメな奴……」
残る酒を軽く煽って、ユイは調理を終える。
トミオに似たのかユイは酒が強い方だった。
こんな時酒に酔って寝てしまえばまだスッキリした気分になるだろうか。
「俺はそれでもユイを応援するぞ」
「ありがと……」
ユイは二本目のお酒に手を伸ばす。
柑橘系の爽やかな香りは、セレモニーホールで出会った彼を少しだけ連想させた。
マシューが今日も爽やかな朝を知らせてくれる。
このマシューとはユイの携帯端末を管理しているサポートAIだ。
まるで兄のように、相棒のように。
日常の雑務を全てサポートしてくれるそんな、頼もしい存在。
聞きなれた成人男性のような低音ボイスが、今日もユイに安心をくれる。
ユイは学生を卒業し、今は就いた仕事にも余裕が出てきた。
大きく伸びをして、ユイはマシューに朝の挨拶を返す。
いつものモーニング。ルーティンが始まる。
トミオが使っていた端末でニュースを確認後、青紫色の鉢植えの花に水をやる。
キッチンに向かって茹で卵を作っている時。
『電撃ニュース! 男性アイドルユニット”RARUTO”のリーダー、ラウルが結婚!』という見出しが飛び込んでくる。
「え! ……うそでしょ!」
RARUTOのラウルは、長年にわたって推してきた存在だ。
3人のなかでも特に魅惑的な声を持つ彼は、最も人気が高い。
ちなみに祖母のリエはピアニストのトミーを推していた。
トミーは若い頃の祖父によく似ていたのだとか。
「え、しかもお相手って一般女性!? なにそれ羨ましすぎる……」
肩からキャミソールワンピの紐がずれ落ちる。
それも放置したままユイは、がっくりと項垂れた。
「ユイ、卵が鍋から飛び跳ねてるぞ」
見かねたマシューが、音量を上げてユイに知らせる。
それで現実にもどったユイは、沸騰し放題だった鍋の火力を消す。
茹ですぎた卵は酷く硬い。
ショックが大きく心ここにあらずなユイ。
部屋のあちこちに飾ってあるラウルのグッズを見て、ユイは深いため息を漏らした。
ー※ー
「でさ、今回の合コンはなかなかイケメン揃いなんだけど、どう?」
ユイがいるのは人気のカフェ。
一緒のレイラは端末をみながらユイをパーティに誘う。
揺れる金色の髪、キラキラしたアイスブルーの瞳。レイラは今日もキレイだ。
そんなレイラがイケメン揃いというのだから、本当に魅力的な男性ばかりなのだろう。
「レイラってば、一体何人の恋人を作れば気が済むの? 一人で良いでしょ?」
「ちょっと! 私の恋人は常に一人で、今はフリーなんだけど!」
「じゃあ、成人式の時に出会った“運命の”彼は?」
「あー、それね。……なんかさ……勘違いだったんだよね」
サラリと視線を外す、レイラ。
ようは飽きてしまったということか。
(なんてこと。何かの勘違いでまた次って……。)
「私はラウルの結婚で、なんていうかもう、絶望なのよ」
「全然そうは見えないけど?」
レイラのするどい指摘にユイは沈黙する。
「ん〜〜、とにかくそんな気分じゃないし、こんな気持ちで参加するのは……ちょっと迷惑だと思う」
ユイは甘いコーヒーを一口飲む。
嘘は言っていない。
「ふうん。……そういうところ、トミオさんとそっくりだよね」
「そういうレイラを見てると、アレンさんの若い頃を想像しちゃうよ」
「ははっ、そう来るか~!」
レイラがやられた、と言わんばかりに笑う。
(……でも、気分転換して欲しいとは思ってるんだろう)
小声でユイはありがとう、と呟いた。
携帯端末に付けた小さな四葉のクローバーのチャームが目に入る。
それは店内の照明の光を受けて僅かに輝く。
それは彼女の微笑みに似ていると、ユイは一瞬思った。
なにかを思い出しかけたような気がした。
しかしすぐにユイは気のせいと判断し、それ以上考えるのをやめた。
ー※ー
スーパーでお酒を購入し、キッチンで料理をしながらグイッとあおる。
今日作るのはトミオが大好きだった炒め物だ。
意外と肉派なトミオのために、リエがよく作ってくれたもの。
そう言えばサツキも作ってくれたことがあった。
「料理はそこそこ上達したと思うけど、食べてくれる人がいないのも寂しいよね」
「本当に上達したのかどうかは分からないと思うぞ?」
携帯端末の画面にいるマシューが声を掛ける。
「調味料をボトルから直接足すのはちょっと雑過ぎないか?」
「う……」
ユイは引き出しから計量スプーンを取り出し、丁寧に調味料を量る。
(面倒だなぁ。でも……マシューの言ってることは正しい)
「マシュー。やっぱりパーティに行くべきだったかな?」
「行きたかったのか?」
「……ううん」
「決断するのはユイだが、パーティに参加すれば推しに似た人を探せたかもしれない」
「それはダメ。それは美しくない!」
酔いが回って来たのか、ユイが饒舌になる。
「推しは推しだから尊いの。たとえどんなに推しに似ていても、それは推しじゃない!」
「そういうものか? ふむ、記憶しておこう」
「くぅぅぅ……。推しの幸せを素直に喜べないなんて……私ってダメな奴……」
残る酒を軽く煽って、ユイは調理を終える。
トミオに似たのかユイは酒が強い方だった。
こんな時酒に酔って寝てしまえばまだスッキリした気分になるだろうか。
「俺はそれでもユイを応援するぞ」
「ありがと……」
ユイは二本目のお酒に手を伸ばす。
柑橘系の爽やかな香りは、セレモニーホールで出会った彼を少しだけ連想させた。