転生したので好きなことだけしていたら囲われました
第一章
条件付き婚約から始まりました
――本当に、これが私?
鏡に映る自分の姿を見るたび、未だに信じられなくなる。
淡い灰色がかったピンクの髪。
雪のように白い肌。
そして、前世では一度も手に入らなかった、息を呑むほどの美貌。
女神に与えられた“理想の転生”。
きっと、あれはお詫びのつもりだったのだろう。
前世の私は社畜だった。
好きなこともできず、恋人もできず、気づけば時間だけが過ぎていた。
だから今世では、好きなことだけして、目立たず静かに暮らす。
それが、ささやかな夢だった。
――だった。
その夢は、昨日、あっけなく砕かれた。
あの人によって。
――トントントン。
部屋の扉がノックされる。
「はい」
そう答えただけで、入室の許可を出した覚えはない。
それなのに、扉は当然のように開いた。
「よく眠れたかい? シャーロット嬢」
朝の光を背にして立っていたのは、この邸の次期公爵――
マイロ・エバンス様だった。
今日も相変わらず眩しい笑顔。
顔面偏差値が高すぎて、本気で太陽光を反射しているのではないかと疑いたくなる。
「……マイロ様。入室の際は、ノックのあと返事を待ってくださいと、何度も――」
「大丈夫。君の侍女、ミアの了承はもらっている」
得意げに言われ、言葉に詰まる。
……私の了承は?
けれど、ここで突っ込んでも意味がないことを、昨日からの経験で学んだ。
「で、今日はなんのご用ですか?」
その言葉を待っていたかのように、マイロ様は微笑み、距離を詰めてくる。
「愛しい人に会いに来ただけだよ」
手を取られ、甲に口付けられる。
今世で異性に触れられたのは、昨夜のデビュタント直前まで父だけだった。
それなのに、初対面だったはずのマイロ様に、手の甲に口付けされ、挙げ句の果てには――
お姫様抱っこ。
しかも、大勢の貴族の前で。
思い出しただけで顔が熱くなり、記憶を抹消したくなる。
昨夜の悪夢が脳裏をよぎり、思わず頭を抱えた私の手を、マイロ様が取る。
逃がさないように、そのままソファーへと導かれた。
そこへ、まるで計ったかのようなタイミングで、ミアがハーブティーを運んでくる。
(ミア……)
じとりと視線を向けると、彼女は小さく「えへへ」と笑って誤魔化した。
「ところでシャーロット嬢。あの話、考えてくれたかい?」
深刻そうな声音で、カップを差し出される。
……来た。
「それは……」
断ろうとする前に、マイロ様が言葉を重ねる。
「これは君を守るためなんだ」
両手を包み込まれる。
優しくて、けれど逃げ場のない力。
「君は無防備すぎる。
悪い虫がつかないか、心配でね。……君自身が、気づいていないところで」
憂いを含んだ視線。
わかっている。
このあとに続く言葉も。
「どうかお願いだ。俺の婚約者になってほしい。――偽でいい」
――ずるい。
そんな目で、見ないで。
「……でも、私より釣り合う方がいらっしゃるでしょう」
マイロ様のもとには、毎日山のように求婚状が届いていると聞いている。
「そんなことを言われても意味がない」
視線を逸らしたまま、胸元の服を握りしめる。
「シャーロット嬢以外に言われても、ね」
そして、静かに。
「……ダメかい?」
上目遣い。
小さく息を吸い込んでしまった。
「……とりあえず、保留で」
「希望はある、ってことだね」
「あるかも……ないかも、です」
「じゃあ、努力しないと」
満面の笑み。
「君が俺を好きになってくれるように」
胸が、どくりと嫌な音を立てた。
この言い訳を、いつまで使えるのだろう。
その問いから、
逃げるのか、選ぶのか――
もう後戻りできないことだけは、わかっていた。
鏡に映る自分の姿を見るたび、未だに信じられなくなる。
淡い灰色がかったピンクの髪。
雪のように白い肌。
そして、前世では一度も手に入らなかった、息を呑むほどの美貌。
女神に与えられた“理想の転生”。
きっと、あれはお詫びのつもりだったのだろう。
前世の私は社畜だった。
好きなこともできず、恋人もできず、気づけば時間だけが過ぎていた。
だから今世では、好きなことだけして、目立たず静かに暮らす。
それが、ささやかな夢だった。
――だった。
その夢は、昨日、あっけなく砕かれた。
あの人によって。
――トントントン。
部屋の扉がノックされる。
「はい」
そう答えただけで、入室の許可を出した覚えはない。
それなのに、扉は当然のように開いた。
「よく眠れたかい? シャーロット嬢」
朝の光を背にして立っていたのは、この邸の次期公爵――
マイロ・エバンス様だった。
今日も相変わらず眩しい笑顔。
顔面偏差値が高すぎて、本気で太陽光を反射しているのではないかと疑いたくなる。
「……マイロ様。入室の際は、ノックのあと返事を待ってくださいと、何度も――」
「大丈夫。君の侍女、ミアの了承はもらっている」
得意げに言われ、言葉に詰まる。
……私の了承は?
けれど、ここで突っ込んでも意味がないことを、昨日からの経験で学んだ。
「で、今日はなんのご用ですか?」
その言葉を待っていたかのように、マイロ様は微笑み、距離を詰めてくる。
「愛しい人に会いに来ただけだよ」
手を取られ、甲に口付けられる。
今世で異性に触れられたのは、昨夜のデビュタント直前まで父だけだった。
それなのに、初対面だったはずのマイロ様に、手の甲に口付けされ、挙げ句の果てには――
お姫様抱っこ。
しかも、大勢の貴族の前で。
思い出しただけで顔が熱くなり、記憶を抹消したくなる。
昨夜の悪夢が脳裏をよぎり、思わず頭を抱えた私の手を、マイロ様が取る。
逃がさないように、そのままソファーへと導かれた。
そこへ、まるで計ったかのようなタイミングで、ミアがハーブティーを運んでくる。
(ミア……)
じとりと視線を向けると、彼女は小さく「えへへ」と笑って誤魔化した。
「ところでシャーロット嬢。あの話、考えてくれたかい?」
深刻そうな声音で、カップを差し出される。
……来た。
「それは……」
断ろうとする前に、マイロ様が言葉を重ねる。
「これは君を守るためなんだ」
両手を包み込まれる。
優しくて、けれど逃げ場のない力。
「君は無防備すぎる。
悪い虫がつかないか、心配でね。……君自身が、気づいていないところで」
憂いを含んだ視線。
わかっている。
このあとに続く言葉も。
「どうかお願いだ。俺の婚約者になってほしい。――偽でいい」
――ずるい。
そんな目で、見ないで。
「……でも、私より釣り合う方がいらっしゃるでしょう」
マイロ様のもとには、毎日山のように求婚状が届いていると聞いている。
「そんなことを言われても意味がない」
視線を逸らしたまま、胸元の服を握りしめる。
「シャーロット嬢以外に言われても、ね」
そして、静かに。
「……ダメかい?」
上目遣い。
小さく息を吸い込んでしまった。
「……とりあえず、保留で」
「希望はある、ってことだね」
「あるかも……ないかも、です」
「じゃあ、努力しないと」
満面の笑み。
「君が俺を好きになってくれるように」
胸が、どくりと嫌な音を立てた。
この言い訳を、いつまで使えるのだろう。
その問いから、
逃げるのか、選ぶのか――
もう後戻りできないことだけは、わかっていた。