「魔王の定義」魔王になる運命の私は、その運命にあらがいたい
「陛下お持ちください。俺には出来ません……」
俺の言葉に、重鎮達が声を荒げる。
「陛下の命令に背くだと」
「不敬だ」
「魔王に心を奪われた愚かな勇者」
俺を罵倒する声があちらこちらから聞こえてくる。
それでも俺は命令に従うことが出来ず、両手に力を入れてから口を開いた。
「魔王は存在しません。この薬こそが聖女の証なのです」
俺がもう一度薬について説明をしようとしたその時だった。
「だったらそれを証明して見せて下さい」
そう言いながらゴルドウが俺に向かって短剣を突き刺そうとしてきた。
いつもなら簡単によけ、剣を使って薙ぎ払えるのだが、今の俺にはその判断力がかけていた。ゴルドウの短剣は俺の胸、心臓部分をめがけて体当たりをするように向かってきた。
あと数センチで俺の心臓に短剣が刺さる……そう思った時、俺の体が薄い膜のような物で包まれ短剣が弾かれた。それと同時にゴルドウがくぐもった声を上げて、短剣をその場に落とした。俺は足元に落ちた短剣を蹴り飛ばし、ゴルドウがもう一度短剣を手に出来ないようにした。
そんな俺の前に、俺と同じように光の膜につつまれた美しい人が現れた。
「ジェシカ!」
俺がその名を叫ぶと、陛下の肩が大きく跳ねた。
「あれが魔王……」
光のベールに包まれながら現れたジェシカは、到底魔王には見えなかった。
やわらかい光に包まれたジェシカは銀色の髪をふわりとなびかせ、空色の澄んだ美しい宝石のような瞳をきらめかせる。その姿は女神、天使、聖女、そんな言葉がぴったりと当てはまるような姿だった。
その場にいた聖教会の人間は思わず両手を組み、膝をつくと頭を垂れた。それに倣うようにその場にいた人々も膝をついた。それほどまでにジェシカの姿は神々しかったのだ。