「魔王の定義」魔王になる運命の私は、その運命にあらがいたい

「どうしてここにジェシカが?」

 俺の前に現れたジェシカの体を俺は抱きしめた。そんな俺の背中にジェシカも腕を回し、抱きしめ返してくれた。

「ジュウド様の危機に指輪が発動した時には、その瞬間ジュウド様の元に転移するように魔法をかけておいたのです。良かった……ご無事なようですね。この指輪を渡しておいて本当に良かったです。」

 俺の腕の中でジェシカそう呟いた。

「指輪のおかげで命拾いしたよ」

 そう言いながら俺の体は震えていた。これは命をねらわれた恐怖によるものではない。

 ジェシカを殺せと命じられた恐怖と不安のせいで、俺は平静を装うことが出来なかった。今にも子供のように泣き出しそうだった。そんな俺を見て、何かを察したジェシカがふわりと笑った。慈愛に満ちるその笑顔に、ジュウドを含め周りにいた人々の顔が赤く染まっていく。

  その微笑みは聖女そのもの。

 この姿を見れば皆がジェシカを聖女だと認めてくれるはずだ。

 しかしゾイド陛下は濁った眼を見開きながら怒鳴り声を上げた。

「魔王だ!魔王が現れた!騎士達よ、その者を拘束せよ。ジュウド、魔王の命を絶て!」

 ゾイド陛下は瞳孔の開ききった濁った眼で、こちらに怒声を上げ続ける。

 しかし俺はジェシカを守るように前に出た。

 そんな俺を見た騎士達は、陛下の命令に従うべきなのか困惑している様子で動けずにいた。

「陛下、ジェシカは聖女です。命令を取り下げて下さい」

 俺たちの視線は陛下に注がれていた。

 そのせいで気づくのが遅れた。 

 どうしてあいつの存在を忘れていたんだろう。

 それほどに俺は必死で、周りが見えなくなっていたんだ。 

 気づいた時にはもう遅かった。

 ドンッと俺は背中に強い衝撃を受けた。

 それから数秒後、俺はごほっと口から生暖かい血を吐いていた。口からあふれ出た血は床を真っ赤に染めていく。

 俺はゆっくりと後ろを振り返る。

 そこにはゴルドウの姿があった。           

 ゴルドウの顔は醜くニヤリと笑っている。

 やられた……。

 そう思ったのと同時に、体がぐらりと揺れて俺は床に倒れこんでいた。 

 床に倒れこむまでの時間、まるで時間がゆっくりと流れているかのように、世界が揺らいで見えた。そんな中で俺はジェシカの姿を探した。

 俺が刺された姿を見てジェシカが悲鳴を上げていた。



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