「魔王の定義」魔王になる運命の私は、その運命にあらがいたい
ジェシカの手に力が込められた。
やめろ!
やめてくれ!
時間がゆっくりと流れていく様な感覚。
短剣がゆっくりとゆっくりとジェシカの体に沈んでいく。
ジェシカの手を通して、鈍い感触が手に伝わってきた。
何が起こったのか、思考が停止して何も考えられない。ボーっとジェシカを見つめていると目の前のジェシカが大量の血を吐き出した。
ジェシカの服が赤く染まり、俺の思考が戻ってくる。それと同時にゆっくりと流れていた時間が戻った様な感覚がした。
「うあぁぁぁぁーーーー!ジェシカ、ジェシカ、ジェシカどうしてだ」
どうして俺はジェシカを刺した。
どうしてジェシカは笑っている?
どうしてジェシカは血を吐いている。
どうしてジェシカが死ななくてはいけない?
どうして、どうして、どうして……。
「ふふふっ。ジュウド様大丈夫です。また会いましょう」
何が大丈夫なんだ。
来世でなんて嫌だ。
俺は今をジェシカと共に生きたいんだ。
「愛しています……」
ジェシカが微笑みながら俺にそう言った。
その美しい微笑みに息を呑んだ。
ダメだ。
なぜ笑うんだ。
俺の唯一。
俺の運命。
俺の……俺の……ジェシカ。
「嫌だ……っ……ずっと……俺と一緒に……っ……ああ……」
君を愛しているんだ。
そう言葉にしたい。
だからどこにも行かないでくれと。
そう言いたいのに……。
「ジェシカ……っ……」
愛しい人の名前を呼んだ。
するとジェシカの体がゆっくりと透けていった。
まるで空気に溶けるように、ゆっくりと消えていくジェシカ。
待ってくれ、俺はまだジェシカに言っていない。
愛していると、すぐに会いに行くと。
しかし喉が詰まって言葉が出てこない。
涙は滝のように流れ、溢れ出ているというのに、言葉を声にすることが出来なかった。
愛している。
俺も君を愛している。
これからもずっと君を……君だけを……一人だけを愛し続ける。
君だけだ。
消えゆくジェシカを抱きしめながら俺は泣き続けた。
そして、ジェシカを抱きしめていた手からぬくもりが消えた。
ジェシカの体が完全に消えた瞬間だった。
「ああ゛……あ゛あぁぁぁぁーーーーーー!!ジェシカーーーーーー!!」
俺の悲痛な叫び声は王城中に響き渡った。