「魔王の定義」魔王になる運命の私は、その運命にあらがいたい
一旦リビングに戻ると、両手に魔力を込める。私は誰にも教わってはいないが、魔法の言葉を口にした。それは歌うような魔法の呪文で体が淡く発光し、暖かい光が放たれた。
「ふう。こんなものかな?」
部屋を見ると、先ほどまであった分厚い埃はどこへやら。部屋がピカピカになっていた。これはジェシカが屋敷の地下牢でも使っていた魔法だ。誰も来ない地下牢を清潔に保てていたのはこの魔法のおかげだった。
きれいになったリビングでリトが走り回る。
「リト、このお家気に入った?」
私の言葉にリトが嬉しそうに「わん」と答えた。
「あれ、やっぱりリトは犬だったのね?今「わん」って言ったよね」
リトの顔を覗き込みながら首をかしげると、リトも真似をして首をかしげた。それがとても可愛くて思いっきり抱きしめると、リトは嫌そうにジタバタと暴れた。そんな姿も可愛くて、これでもかと撫でまわした。
「このままここに住んでもいいのかな?」
私は魔王となる人間だ。
将来私は人々の脅威となる。
そんな人間がこんな所でのほほんと暮らしていても許されるのだろうか?
私自身は魔王になるつもりはない。
それでも私の意思に反して、魔王になってしまうのだろうか?
ここで心穏やかに暮らしていれば魔王にはならないのではないかと、微かな希望を抱いてしまう。
だって私は人を苦しめたいとか、殺してやりたいなどの感情は全くない。だからこの森の奥で穏やかに暮らしながら静かに死を迎えることができるのではないだろうか?
「そうだよ。ここで静かに暮らせばいいんだ」