涙色のアリス 俺の声が聞こえるかい?
3時過ぎまでのんびりさせてもらってから俺は家に帰ることにした。 「寂しいなあ。」
「じゃあ楓も来るかい?」 「行ってもいいけど誰か居るんじゃ?」 「大丈夫。 今の時間ならみんな働いてるから。」
「そうなの? じゃあちょっとだけ覗いてみようかな。」 そう言って楓は付いてきた。
バスを降りるとあのアルファロメオが近付いてきた。 「楓さん 今日は彼氏の家に来たの?」
「しーーーーーーー。」 「ごめんごめん。 メールで話すよ。」
佐々木さんが窓を閉めたから楓は小さく頷いた。 その後はメールのやり取りをしているらしい。
家に着いてから楓は俺に言った。 「5時くらいに佐々木さんが迎えに来るんだって。」
『分かった。 それまで俺の部屋でのんびりしててよ。」 「ありがとう。」
母ちゃんも兄ちゃんも父さんも居ない時間で良かったわ。 居たら大騒ぎだったろうなあ。
「お前にこんな彼女が居たのか? 似合わねえだろう。」 兄ちゃんなら言いそうだな。
電気ポットに水を入れてココアとコーヒーを持って二階へ上がる。 楓は壁に飾られたジャンバーに見入っていた。
「これすごいね。」 「ああ、それはオートレーサーの着てたジャンバーだよ。」
「オートレーサー?」 「俺、バイクが好きだからさ、たまに見に行くんだよ。 そこで貰ったんだ。」
そのレーサーも先頃、事故で死んじまったけどな。 オートレースも事故が多いんだ。
転倒して後続のバイクに踏まれた人だって居る。 スピードを出してるんだから止まりたくても止まれない。
踏まれたほうも踏んだほうも居た堪れないだろうなあ。 悪気が有ったわけじゃないから。
特にあのカーブで転んだら最悪だよな。 俺だって目を伏せたくなる。
楓はベッドに腰を下ろした。 そこで俺はココアを差し出した。
「ありがとう。」 飲みながら何か考えている。
「来月で卒業なのよね?」 「そうだ。 案外と速かった。」
「だよね。 あっという間だった。 でも最後に桜木君とこうやって付き合えて嬉しかったよ。」 「まだまだこれからだぜ。」
「そうよね。 これからだよね。」 どっか楓の元気が無い。
どうしたんだろう? 気にはなるけど聞いたって分からないだろうな。
黙ったまま時間は過ぎていく。 俺は耐えきれなくなって楓の前に立った。
「何?」 不思議そうに俺を見上げる楓。 そんな楓を抱き上げるときつく抱き締めてキスをした。
「ほんとにいいの? 私でいいの?」 困ったような顔で楓は俺に聞いてくる。 「良くなかったら選んでないよ。」
素っ気なく答えると楓は肩に顔を埋めた。
どれくらい時間が経ったんだろう? 楓のスマホが鳴った。
ドキッとしたのか、楓は慌ててスマホを取った。 「もしもし。 ああ佐々木さんね? ごめんなさい。」
時計はもう5時を指していた。 「忘れてたわ。 佐々木さんが迎えに来てくれてた。」 「よろしく言っといてよ。」
『分かった。 明日も元気に会おうね。」 楓は靴を履くと名残惜しそうに振り返りながら出て行った。
やっぱり忘れられないよな。 早く一緒になりたい。
どんな生活になるのか予想も出来ないけれどそんな日が来るのを楽しみにしている。 でも今夜も寝れそうにないな。
だってキスまでしちゃったんだからね。 ませてるなとは思ったけど、でもみんなそれくらいはやってるんだもんなあ。
夕食を食べながら考えるのは楓のことばかり。 だからかな、母ちゃんたちの話が耳に入ってこない。
時々、俺に話を振ってくるんだけど全く聞いてないから何の話なんだかさっぱり分からなくて。
おかげで我が家では静かな問題時だって言われてしまってる。 まあいいけどね。
そのまま卒業試験を迎えた。 学年末考査だ。
赤点だけは出せないからなあ。 いつもより緊張しちゃうよ。
おかげで試験が終わった後は気が抜けたサイダーみたいになってる。 楓ももちろんそう。
こんな時にはスイートに飛び込んで叔父さんに笑わせてもらうのが一番。 コーヒーを飲みながら世間話に花を咲かせる。
誰にも気を遣わずに楓と二人で居られる時間、、、俺にはとっても大事な時間になってるなあ。
昼間のスイートは客が居なくて叔父さんも暇を持て余しているみたい。 cdを聞きながらウェイターと二人でチェスをやってたりする。
「桜木君はチェスはやらないのか?」 「持ってないから分からなくて、、、。」
「そうか。 残念だなあ。」 「叔父さんはチェスの世界大会で優勝するのが夢なのよね?」
「そうだなあ。 八百長でもいいから優勝したいなあ。」 「それはダメでしょう。 マスター。」
「いいじゃんか。 優しく勝てって言うんだから。」 「何処が優しいのよ?」
「俺だよ。 俺。」 「それってさあ、ただ間抜けなだけじゃない。」
その一言に俺はコーヒーを噴き出してしまった。 「ほらほら楓ちゃん 彼氏が噴き出したじゃない。 気を付けなさい。」
叔父さんも「ここぞ」とばかりに釘を刺す。 「やられた。」
ガランガランと鈴が鳴って客が入ってきた。 見たことの無い女の子だ。
「オー、雅代ちゃんじゃないか。 元気にしてたか?」 「うん。 最近は忙しくてこっちのほうには来れなかったけど。」
「焼酎は無いからな。」 「分かってるわよ。 昼間から飲もうなんて思わないから。」
「そうかそうか。 面白くないなあ。」 「尾は白いわよ。」
「あれ? お前の尻って真っ白だったっけ?」 「やあねえ。 真っ赤よ。 って何を言わせるの?」
「いつものレスカでいいんだよな?」 「お願いね。」
二人の漫才を聞きながら俺と楓はコーヒーを飲んでいる。 たまに顔を見合わせながら。
明日で卒業試験も終わり。 そうすると二人で温泉へ、、、。
何か起きるとやばいから佐々木さんも部屋を予約したみたい。 まるで影武者。
のんびりとコーヒーを飲みながらメールで話をしている。 画面を見ながら楓はクスクス笑っている。
叔父さんは雅代さんと話し込んでいる。 楽しそうだなあ。
時々、ウェイターが俺の傍にやってくる。 「コーヒー 入れようか?」とか言ってね。
「吉川さんも飲まない?」 「え? ウイスキーですか?」
「違うわよ。 コーヒーよ。」 「貰おうかな。」
「もちろん私が払うから。」 「ご馳走様です。」
このウェイター 吉川さんも話してみるとなかなか面白い人だ。 時々楓も吹き出しちゃうくらい。
そんなこんなで5時を過ぎた。 「長居しちゃったね。」
「いいのよ。 ここは私の庭だから。」 「えーーー? 庭だったの?」
「叔父さん 今まで気付かなかった?」 「気付いてたけどさあ、本当に言うとは思わなかったよ。」
「ごめんなさいね。 ずうずうしくて。」 「ほんとにそうだわ。」
しかしまあ、この二人ははっきり言うんだなあ。 これでほんとにやくざ?
「桜木君 これでほんとのやくざかって思ったでしょう?」 「ドキ、、、。」
「やっぱりね。 私たちどっか変わってるのよ。」 「大いに変わってるわよ。 ねえマスター。」
「あ、、、。」 突っ込み合いをしながら俺たちは店を出る。
そしたらバス停までは猛ダッシュだあ。
ということで卒業試験も無事に終わって今は温泉地へ向かうバスの中。 楓と二人で並んで座ってる。
清川温泉。 山間の静かな所に在るんだって。 またまた風流な場所だなあ。
ここで2泊3日。 取り立てて何をするってことも無いんだけどさあ、何かに追い回されてるよりはいいかと思って。
佐々木さんも近くの部屋を予約してたらしい。 何か有ったら呼んでくれよって楓に話してた。
チェックインを済ませて部屋に荷物を置く。 何だか急に大人になった気分。
楓はポットにお湯を沸かしてる。 落ち着いたらお茶を飲むんだって。
高校生二人だけで温泉に来た。 でもなんか違和感が無いんだ。
大人びて見えるのかなあ? それとも?
夕食まではまだまだ時間が有るから散策にでも行きたいな。 けど周りは雪に埋もれてる。
「ねえねえ雪合戦やらない?」 「雪合戦? そうか、この間はやれなかったんだもんね。」
寒さ対策を万全にして俺たちは庭へ出た。 けっこうな広さが有るから少々雪玉を投げても問題になることは無いだろう。
「行くよ‼」 振りかぶった楓が投げ込んでくる。
「やったなあ‼」 そう言って俺が投げ返す。
「キャー‼ 何処狙ってんのよ‼」 「狙ってねえってば。」
でかい球を投げてみる。 「うわ、こんなの投げてきた。」
「いてえなあ。 何すんだよ?」 「お返ししたのよ。 ウフ。」
「じゃあこれでどうだ‼」 「いたーーい。 何処狙ってんの?」
「だから狙ってねえってば。」 「狙ったでしょう? 変態なんだから。」
雪球を投げながら2階の窓に目をやる。 煙草を吹かしながら佐々木さんが俺たちを見詰めているのが見えた。
「いてえ!」 「何見てたの?」
「あれだよ。 あれ。」 俺が指差すと楓も佐々木さんの笑顔に苦笑した。
1時間ほど雪合戦をした後、冷えた体を温めようと思って温泉に飛び込む。 「やっぱ温泉は違うなあ。」
でっかいお風呂の中で伸びていると「桜木君 元気いいなあ。」って声が聞こえた。 遠くから見守っていた佐々木さんも入ってきたんだ。
「楓さんと仲良しだね。」 「何か急に仲良くなったから驚いてますよ。」
「楓さんってね、お母さんにすごく虐められてきたんだ。」 「虐め?」
「そう。 今のお母さんは二人目なんだよ。 産んだお母さんは病気で死んでしまって。」 「病気で?」
「うん。 安塚は産んだお母さんの家なんだ。 それで後妻に入ったまではいいんだけど楓さんを虐めるようになっちまった。」 「どんなことしてたんですか?」
「あの子は誰にでも優しくしてたんだ。 それで友達も多かった。 けど家に遊びに来た友達に嘘を吹き込んだんだよ。」 「嘘?」
「やくざに入れようとしてるとか言うことを聞かないと覚醒剤を使わされるとか、、、。」 「それはひどいな。」
「それで楓ちゃんは自分から友達を遠ざけるようになっちまったんだ。」 「そうだったんですね。」
「桜木君 今は君だけだと思う。 楓ちゃんのことをよろしく頼むよ。」 「分かりました。 でもこのことは本人には聞かないほうがいいですね?」
「いつか楓ちゃんのほうから話す時が来ると思う。 それまでは黙っていてほしい。」 佐々木さんはそう言うと風呂から出て行った。
「じゃあ楓も来るかい?」 「行ってもいいけど誰か居るんじゃ?」 「大丈夫。 今の時間ならみんな働いてるから。」
「そうなの? じゃあちょっとだけ覗いてみようかな。」 そう言って楓は付いてきた。
バスを降りるとあのアルファロメオが近付いてきた。 「楓さん 今日は彼氏の家に来たの?」
「しーーーーーーー。」 「ごめんごめん。 メールで話すよ。」
佐々木さんが窓を閉めたから楓は小さく頷いた。 その後はメールのやり取りをしているらしい。
家に着いてから楓は俺に言った。 「5時くらいに佐々木さんが迎えに来るんだって。」
『分かった。 それまで俺の部屋でのんびりしててよ。」 「ありがとう。」
母ちゃんも兄ちゃんも父さんも居ない時間で良かったわ。 居たら大騒ぎだったろうなあ。
「お前にこんな彼女が居たのか? 似合わねえだろう。」 兄ちゃんなら言いそうだな。
電気ポットに水を入れてココアとコーヒーを持って二階へ上がる。 楓は壁に飾られたジャンバーに見入っていた。
「これすごいね。」 「ああ、それはオートレーサーの着てたジャンバーだよ。」
「オートレーサー?」 「俺、バイクが好きだからさ、たまに見に行くんだよ。 そこで貰ったんだ。」
そのレーサーも先頃、事故で死んじまったけどな。 オートレースも事故が多いんだ。
転倒して後続のバイクに踏まれた人だって居る。 スピードを出してるんだから止まりたくても止まれない。
踏まれたほうも踏んだほうも居た堪れないだろうなあ。 悪気が有ったわけじゃないから。
特にあのカーブで転んだら最悪だよな。 俺だって目を伏せたくなる。
楓はベッドに腰を下ろした。 そこで俺はココアを差し出した。
「ありがとう。」 飲みながら何か考えている。
「来月で卒業なのよね?」 「そうだ。 案外と速かった。」
「だよね。 あっという間だった。 でも最後に桜木君とこうやって付き合えて嬉しかったよ。」 「まだまだこれからだぜ。」
「そうよね。 これからだよね。」 どっか楓の元気が無い。
どうしたんだろう? 気にはなるけど聞いたって分からないだろうな。
黙ったまま時間は過ぎていく。 俺は耐えきれなくなって楓の前に立った。
「何?」 不思議そうに俺を見上げる楓。 そんな楓を抱き上げるときつく抱き締めてキスをした。
「ほんとにいいの? 私でいいの?」 困ったような顔で楓は俺に聞いてくる。 「良くなかったら選んでないよ。」
素っ気なく答えると楓は肩に顔を埋めた。
どれくらい時間が経ったんだろう? 楓のスマホが鳴った。
ドキッとしたのか、楓は慌ててスマホを取った。 「もしもし。 ああ佐々木さんね? ごめんなさい。」
時計はもう5時を指していた。 「忘れてたわ。 佐々木さんが迎えに来てくれてた。」 「よろしく言っといてよ。」
『分かった。 明日も元気に会おうね。」 楓は靴を履くと名残惜しそうに振り返りながら出て行った。
やっぱり忘れられないよな。 早く一緒になりたい。
どんな生活になるのか予想も出来ないけれどそんな日が来るのを楽しみにしている。 でも今夜も寝れそうにないな。
だってキスまでしちゃったんだからね。 ませてるなとは思ったけど、でもみんなそれくらいはやってるんだもんなあ。
夕食を食べながら考えるのは楓のことばかり。 だからかな、母ちゃんたちの話が耳に入ってこない。
時々、俺に話を振ってくるんだけど全く聞いてないから何の話なんだかさっぱり分からなくて。
おかげで我が家では静かな問題時だって言われてしまってる。 まあいいけどね。
そのまま卒業試験を迎えた。 学年末考査だ。
赤点だけは出せないからなあ。 いつもより緊張しちゃうよ。
おかげで試験が終わった後は気が抜けたサイダーみたいになってる。 楓ももちろんそう。
こんな時にはスイートに飛び込んで叔父さんに笑わせてもらうのが一番。 コーヒーを飲みながら世間話に花を咲かせる。
誰にも気を遣わずに楓と二人で居られる時間、、、俺にはとっても大事な時間になってるなあ。
昼間のスイートは客が居なくて叔父さんも暇を持て余しているみたい。 cdを聞きながらウェイターと二人でチェスをやってたりする。
「桜木君はチェスはやらないのか?」 「持ってないから分からなくて、、、。」
「そうか。 残念だなあ。」 「叔父さんはチェスの世界大会で優勝するのが夢なのよね?」
「そうだなあ。 八百長でもいいから優勝したいなあ。」 「それはダメでしょう。 マスター。」
「いいじゃんか。 優しく勝てって言うんだから。」 「何処が優しいのよ?」
「俺だよ。 俺。」 「それってさあ、ただ間抜けなだけじゃない。」
その一言に俺はコーヒーを噴き出してしまった。 「ほらほら楓ちゃん 彼氏が噴き出したじゃない。 気を付けなさい。」
叔父さんも「ここぞ」とばかりに釘を刺す。 「やられた。」
ガランガランと鈴が鳴って客が入ってきた。 見たことの無い女の子だ。
「オー、雅代ちゃんじゃないか。 元気にしてたか?」 「うん。 最近は忙しくてこっちのほうには来れなかったけど。」
「焼酎は無いからな。」 「分かってるわよ。 昼間から飲もうなんて思わないから。」
「そうかそうか。 面白くないなあ。」 「尾は白いわよ。」
「あれ? お前の尻って真っ白だったっけ?」 「やあねえ。 真っ赤よ。 って何を言わせるの?」
「いつものレスカでいいんだよな?」 「お願いね。」
二人の漫才を聞きながら俺と楓はコーヒーを飲んでいる。 たまに顔を見合わせながら。
明日で卒業試験も終わり。 そうすると二人で温泉へ、、、。
何か起きるとやばいから佐々木さんも部屋を予約したみたい。 まるで影武者。
のんびりとコーヒーを飲みながらメールで話をしている。 画面を見ながら楓はクスクス笑っている。
叔父さんは雅代さんと話し込んでいる。 楽しそうだなあ。
時々、ウェイターが俺の傍にやってくる。 「コーヒー 入れようか?」とか言ってね。
「吉川さんも飲まない?」 「え? ウイスキーですか?」
「違うわよ。 コーヒーよ。」 「貰おうかな。」
「もちろん私が払うから。」 「ご馳走様です。」
このウェイター 吉川さんも話してみるとなかなか面白い人だ。 時々楓も吹き出しちゃうくらい。
そんなこんなで5時を過ぎた。 「長居しちゃったね。」
「いいのよ。 ここは私の庭だから。」 「えーーー? 庭だったの?」
「叔父さん 今まで気付かなかった?」 「気付いてたけどさあ、本当に言うとは思わなかったよ。」
「ごめんなさいね。 ずうずうしくて。」 「ほんとにそうだわ。」
しかしまあ、この二人ははっきり言うんだなあ。 これでほんとにやくざ?
「桜木君 これでほんとのやくざかって思ったでしょう?」 「ドキ、、、。」
「やっぱりね。 私たちどっか変わってるのよ。」 「大いに変わってるわよ。 ねえマスター。」
「あ、、、。」 突っ込み合いをしながら俺たちは店を出る。
そしたらバス停までは猛ダッシュだあ。
ということで卒業試験も無事に終わって今は温泉地へ向かうバスの中。 楓と二人で並んで座ってる。
清川温泉。 山間の静かな所に在るんだって。 またまた風流な場所だなあ。
ここで2泊3日。 取り立てて何をするってことも無いんだけどさあ、何かに追い回されてるよりはいいかと思って。
佐々木さんも近くの部屋を予約してたらしい。 何か有ったら呼んでくれよって楓に話してた。
チェックインを済ませて部屋に荷物を置く。 何だか急に大人になった気分。
楓はポットにお湯を沸かしてる。 落ち着いたらお茶を飲むんだって。
高校生二人だけで温泉に来た。 でもなんか違和感が無いんだ。
大人びて見えるのかなあ? それとも?
夕食まではまだまだ時間が有るから散策にでも行きたいな。 けど周りは雪に埋もれてる。
「ねえねえ雪合戦やらない?」 「雪合戦? そうか、この間はやれなかったんだもんね。」
寒さ対策を万全にして俺たちは庭へ出た。 けっこうな広さが有るから少々雪玉を投げても問題になることは無いだろう。
「行くよ‼」 振りかぶった楓が投げ込んでくる。
「やったなあ‼」 そう言って俺が投げ返す。
「キャー‼ 何処狙ってんのよ‼」 「狙ってねえってば。」
でかい球を投げてみる。 「うわ、こんなの投げてきた。」
「いてえなあ。 何すんだよ?」 「お返ししたのよ。 ウフ。」
「じゃあこれでどうだ‼」 「いたーーい。 何処狙ってんの?」
「だから狙ってねえってば。」 「狙ったでしょう? 変態なんだから。」
雪球を投げながら2階の窓に目をやる。 煙草を吹かしながら佐々木さんが俺たちを見詰めているのが見えた。
「いてえ!」 「何見てたの?」
「あれだよ。 あれ。」 俺が指差すと楓も佐々木さんの笑顔に苦笑した。
1時間ほど雪合戦をした後、冷えた体を温めようと思って温泉に飛び込む。 「やっぱ温泉は違うなあ。」
でっかいお風呂の中で伸びていると「桜木君 元気いいなあ。」って声が聞こえた。 遠くから見守っていた佐々木さんも入ってきたんだ。
「楓さんと仲良しだね。」 「何か急に仲良くなったから驚いてますよ。」
「楓さんってね、お母さんにすごく虐められてきたんだ。」 「虐め?」
「そう。 今のお母さんは二人目なんだよ。 産んだお母さんは病気で死んでしまって。」 「病気で?」
「うん。 安塚は産んだお母さんの家なんだ。 それで後妻に入ったまではいいんだけど楓さんを虐めるようになっちまった。」 「どんなことしてたんですか?」
「あの子は誰にでも優しくしてたんだ。 それで友達も多かった。 けど家に遊びに来た友達に嘘を吹き込んだんだよ。」 「嘘?」
「やくざに入れようとしてるとか言うことを聞かないと覚醒剤を使わされるとか、、、。」 「それはひどいな。」
「それで楓ちゃんは自分から友達を遠ざけるようになっちまったんだ。」 「そうだったんですね。」
「桜木君 今は君だけだと思う。 楓ちゃんのことをよろしく頼むよ。」 「分かりました。 でもこのことは本人には聞かないほうがいいですね?」
「いつか楓ちゃんのほうから話す時が来ると思う。 それまでは黙っていてほしい。」 佐々木さんはそう言うと風呂から出て行った。