『明日、消えてしまうあなたへ』
【00:00】
頭を鈍器で殴られたような衝撃だった
重くのしかかる、その言葉は
しばらくは消えないだろう
「俺今日で最後なんだ、この街にいるの」
あまりに突然で、手が止まり言葉に詰まる
あなたならなんて返す?
私はどう返せばいい?
「じゃあ今日は24時間ずっと一緒にいよう」
ようやく反応したかと思えば
泣くでもなく、引き止めるでもなく
理由を聞くでもなく
動揺していないかのような返事
あぁ、ほんと可愛くない
「わかった」
彼も素っ気ない
まぁ、でも……そうだよね
だって、私たち
……………………本当の恋人じゃないもん。
タイムリミットまで あと24時間
「いらっしゃい」
「おう」
24時間一緒にいようということで
必要最低限の荷物だけ持ってきてもらい
私の家に泊まることになった
偽装カップルって知ってる?
私たちもね最初の頃は、理由があったんだよ
元彼を見返したいとか
周りが恋人だらけだから合わせたいとか
理由は、人それぞれだけど
似たような理由で、私達は出会った
「この時期に転校って珍しいね」
「まぁ片親だし、出張多いし
まだ学生だから、ついていくしかできねえよな」
「……そうだね」
突然の別れのはずなのに
どうしていいかわからない
私が何を求めているのか
自分のことなのに、何も掴めない
「あ、やべ
俺、家にスマホ忘れたから取り行っていい?」
「いいよ、スマホ必須だよ」
「ついでにコンビニ行こうよ」
簡単に上からパーカーを羽織って
スマホを取りに行くついでにコンビニに行く
転校は慣れっこなのかいつも通りの彼
偽りの関係
私達が恋人になったのは
言っても半年前程
恋人らしいことしたっけ?
ちゃんと偽装できてたのかな
よくわからない距離感で
よくわからないまま半年間ずっと一緒にいて
彼にとって、私は
ちょっと距離の近いご近所さん程度なんだろうな
なぜか少し胸が痛む
「起きたらどっか行く?
最後だし、どこにでも付き合うよ」
二人してお気に入りのアイスを買って帰路に着く
「24時間デートってこと?」
「動画の企画みたいに言うじゃん
まぁ、そんなとこ」
最後の時間をくれるあたり
それなりに仲は良かったのかな?
準備で忙しいだろうに優しいな
「プチ旅行でも行く?」
「帰って来れなくなるよ
近場のいつもの場所でいいよ」
「おけ、俺が起きるまでに
行きたいとこ候補決めといて」
彼は行きたいところないんだろうか
思い出の場所とか
逆に決めてもいいのに
「じゃあ早めに就寝して、また明日」
「ん」
会話もそこそこに
寝る準備を整えて眠りにつく
カチカチと時計の針の音が
今日はいつも以上に気になり寝付けずにいる
【3:00】
眠れないのは、別れが寂しいからじゃない
私が今日休みなのをいいことに
お昼まで寝てたから………
そう、きっと……
タイムリミットまで あと21時間
寝返りを打つと隣では、ぐっすりと眠る彼
呑気だなと思いながら
彼をしばらくじーっと見つめる
今日で全てが最後
することの全てが最後
一緒にいること自体が最後
もし私達が偽装カップルじゃなかったら
彼は今日どう過ごしていたんだろう
可愛いがっていたペットが
突然懐かなくなって、そっぽを向き始める
似てるけど、ちょっと違う
そんな感覚
家を覆っていった外壁が
突然木端微塵に粉砕するような
なんかちょっと違うけど
本当にそんな感覚
ぼーっとしていたら、時刻は4:00
いい加減そろそろ寝ないと起きられない
眠ってるし、気付かないよね
そーっと彼の手を握る
眠っているからか、布団の中だからか
ぽかぽかしてて暖かい
波長の合う、居心地のいい人だった
どこに行っても彼なら
問題なくやっていけそう
今までだってそうだっただろうし
別れなんて、一瞬で寂しくないんだろうな……
【8:00】
「寝すぎじゃね?」
間近で聞こえた彼の声で間抜けな声が出る
「え……もう朝?」
「全然起きないから
早起きのくだり忘れたのかと思ったよ」
ゆっくりと重たい身体を起こして
一刻も早く目を覚ますために顔を洗いに行く
タイムリミットまで あと16時間
「朝ごはんどうする?」
「Cがお腹空いてなければ朝昼一緒にしない?」
「起きたばかりだから、Aがいいなら」
「どこ行く?」
彼はいつ起きたんだろう
私、朝まで手握ってないよね………
大丈夫だよね……別に普通だし
「とりあえず着替えてくる」
「ここで待ってるなんか見てていい?」
彼がテレビを指さす
「いいよ」
「朝って何やってるっけ、普段この時間に起きないから
チャンネル見てもわかんねーや」
「学校行く時、この時間に起きてるでしょ」
「いやそうだけどさ
学校の時はこの時間登校中じゃん」
テレビ見れるアプリとか入れてねーよと
チャンネルをポチポチ変えながら談笑している
「お待たせ」
「着替え早ぇな
女の子は、時間かかるって聞いてたんだけど」
「空耳じゃない?」
「まじかよ、おもろ」
時間がない人をいつまでも待たせないよ
出掛けの準備を済ませて玄関を出る
タイムリミットまで帰らないと決めて
「で、結局どこ行くん?」
「あ……決めてないや」
「どこでもいいってことね」
「逆に行きたいとこないの?」
なんで私、デートしてるんだろうね
彼にとっても私にとっても
これが最後なのに
偽装なの今日で終わりなのに
これは誰に見せてる偽装なんだろうね
自分たち自身なのかな
「ずっと行きたいって言ってた、あの映画見る?」
彼は私の目の前にスマホを持ってきて
検索画面を見せる
「最短で12:00からだね」
「行くなら予約するよ」
「……行こうかな」
「映画始まるまでどっかでご飯食べよ」
私の返事を聞く前からボタンを押してたのか
予約から会計までが一瞬で終わった
映画代渡そうとしたら、俺の奢りとか言って断られるし
その映画、見たかったのは私で
彼は私に合わせてくれただけなのに
「ご飯は、私が奢るから」
「先手取られた」
今日はいつもよりよく笑っている気がする
彼こんなに笑うタイプだっけ?
今日に限っていつもと知らない彼を
たくさん見つけてしまう
こっちまでおかしくなってしまいそう
前から思ってたけど紳士的だよねとか
いつも以上に大事にされてるみたいとか
デートのリードが上手いとか
本当におかしくなってしまったのかな……私
ご飯を食べながら他愛のない会話を繰り広げれば
時間なんてあっという間に進む
今日ばかりはいつもより
ゆっくり進んでほしいなんて
贅沢な悩みだよね
【12:00】
お目当ての映画が始まる
半年間一緒にいたけど
思えば、一緒に映画見るの初めてかも
偽装初めてから3ヶ月くらいは
学校でしか会わなかったし
今思えば全然偽装できてなかったんじゃないかな
アピールとかデートらしいデートとか
あー、お家デートぐらいか
半年って思ったより短い
これでいいんだ
今日1日友達のように楽しんで
笑顔で別れよう
タイムリミットまで あと12時間
「実はね、この映画知らないんだよね」
「えっ、付き合わせて大丈夫だった?
全然、他の映画もあったのに
ってことは、原作も知らないよね」
「全く、でもいいよ
一緒に見れるなら俺はなんでもいい」
今の言葉は素なの、作ってる方なの
どんどん私の知らない、一面を見せてくる彼
私がおかしいのか、彼がおかしいのか
もう私には判断できない
正直言って、映画はめちゃめちゃ面白かった
特に私は原作を知っている分
よりストーリーにのめり込んで深く楽しめた気がする
この映画三時間弱で結構長めなんだけど
見入ってたのか、ラストまで早かった感覚さえある
「新しい扉開いたわ、
風羽のおすすめだけあって面白かった」
「ご満足いただけたようで良かったよ」
「次はどうする?」
面白くなかったらどうしようと思ってたけど
彼の反応を見る限り
気にしすぎていたみたいでほっと胸を撫で下ろす
「次は柊和の行きたいところに行くよ」
「俺かー」
さすがに何でも叶えてもらうばかりじゃ申し訳ないし
今度は自分がついていこうとした
…………けど、
「俺は最後でいいよ
その代わりとっておきの場所に連れて行くから
期待してて」
「なにそれ」
「買い物でもする?」
うまくごまかされた気がする
「来世の自分が欲しいもの買おうかな」
「今欲しいもの無いの?」
「考えとく」
楽しい時間はあっという間に過ぎる
少し目を離したらあっという間に時間は一周してて
数件、お店を回っただけなのに
もう辺りは暗くなっている
【18:00】
「今日って24:00まで
連れ出していいんだよね?」
地元の駅前、近くを歩いていたら
再確認するように彼に聞かれた
「門限はないから大丈夫だよ」
「じゃあ、今からここ行くからついてきて」
彼はそれだけ言うと
私の手を引っ張って目的地に向かう
あっさりと繋がれた手
驚きとはまた違った気持ちに
頭がぐるぐるとする
今までこんな風に手繋いだことないじゃん
こんなしっかりと……っ
ものすごく顔が熱いのが伝わってくる
なんだろう、多分耳まで熱い気までする
一瞬見せられた目的地
私はどこなのかわからず
彼に引かれるまましばらく歩き続ける
タイムリミットまで あと6時間
電車も使って一体どこまで連れていかれるのだろう
移動で、既に2時間使ってる
数回電車を乗り継ぎしている
「大丈夫?疲れてない?」
「このくらいなら、平気」
「 もうちょっとで着くよ」
彼と一緒に電車を降りて
五分ほど少し歩いたところで止まる
「ついたよ」
到着したらしいけど、本当にどこかわからない
「……?、どこ?」
「俺ん家」
「……え?」
耳を疑った
こんな近くにいるのに、空耳を疑ってしまった
だって……… 思わないじゃん
「今から残りの時間は俺にちょうだい」
「は………っ、え…」
困惑している私を彼は家に上げる
え……柊和の家?
なんで………一度も来たことない………
いや、そうじゃなくて…っ
「なんで柊和の家…?」
「嫌だった?」
私は全力で横に首を振る
「話がしたくて」
彼の言葉にさらに首を傾げる
話って今日1日
ずっと話してるけど………
よほど変な顔してたのか彼は軽く笑い出した
「風羽、夢はある?」
「夢?」
将来の夢だろうか
確かに、人生はあっという間だから
遅かれ早かれ決めた方がいいんだろうけど
「俺と一緒に来ない?って言ったら
ついてくる?」
「え……どこに………?」
話の状況がわからず
なんて返していいのかもわからない
「じゃあ」
一区切りにおいて彼が真剣な顔で私を見る
「俺が偽装カップルやめようって言ったらどうする?」
どうするも何も
あなたは明日から居ないんでしょ?
やめようじゃなくて
やめなきゃいけないんじゃないの?
「今日で終わりだよね…?」
「うん、終わりにしたい」
そんなはっきりと言わなくても………
彼は終わらせたかったのかな?
あれ、もしかして私嫌われてる?
この関係嫌だったかな……
急に不安になってきた
なぜだか彼には、嫌われたくないと思ってしまう
【23:00】
残りもあとわずか
あれからしばらく私達は無言のまま
何をするでもなく、視線すらかみ合わない
沈黙が続くこの重たい空気に終止符が打たれた
それも思ってもみなかった言葉で
タイムリミットまで あと1時間
「…………柊和、あのさ」
「…………風羽、俺が」
同時に話してしまい言葉が被る
私は気づいて口を塞ぐが、彼は止まらなかった
「俺が、好きだって言ったらどうする」
「………え」
「俺、ここに残りたい
風羽と一緒に居たいから」
気づかなかっただけで
本当はもっと前からわかってた
なんとか肌で感じてた
気持ちは、私の頭よりずっと先にいた
彼の言葉を聞いて、ブワッと
私の中に私自身の気持ちが溢れ出る
もう………偽らなくていいんだ
終わりにしよう
彼が踏み台を作ってくれた
次は、私の番じゃない?
「奇遇だね、私も柊和と一緒に居たい」
「え、ほんと」
「うん……ありがとう」
偽りじゃない、それだけでどんなに嬉しいか
今日1日いつも以上に
私を大事にしてくれて
彼の手の平から伝わる熱が
彼より先に告白してるみたいだった
ずっと、ずっと体温越しに伝わってた
「親に今回からついていかないって
もう伝えてあるんだ」
「そうなの?」
「うん、かなり前から話はつけてある」
なんだ、じゃあ明日いなくなるってのも嘘だったんだ
茶番繰り広げてたみたいじゃんか
「よかった」
「風羽、可愛いとこあるよね」
「え?」
「まさか、俺が眠ってる間に
手を握ってくるとは思わなかったよ」
「は…っ///」
バレてた……
でも、そんなこと気にならないくらい嬉しい
私も、ちゃんとしっかり好きだったんだな
彼のこと…。
「改めて、俺を彼氏にしてくれませんか?
今度は……正式に」
24:00まであと1分を切った頃
「これからも、よろしくお願いします」
私たちの約半年間の
早いようで、長かった
偽装の仮面が剥がれ落ちた___
『明日、消えてしまうあなたへ』
𝑭𝒊𝒏.
