シトラスの魔法が解けるまで
​「……で。用件、なんだよ」
あのときより​低くて、少しぶっきらぼうな声。
その一言が、私の心の堤防を決壊させた。
​「……あのさ、瀬戸」
声が震える。でも、一度口を開いたら止まらなかった。
​「……私のこと嫌いなら、そう言って! 諦めれるから!『めんどくさい』とか『行かないかも』とか、期待させるようなこと言わないではっきり言ってよ!」
​彼は一瞬、息を呑んで目を見開いた。
「……え?」
「だって、一年前からずっとそうじゃん! 目も合わせてくれないし、話しかけても無視に近いし……。私、もう怖くて……。あの日のこと怒ってるの?それとも、もう話しかけてもいいの? 一生視界に入らないほうがいいの……?」
​視界が滲んで、彼の顔が見えなくなる。
一滴、机に涙が落ちた。
せっかくつけたシトラスの香りが、涙の熱で鼻の奥にツンと突き刺さる。
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