【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?
***


 それ以降、チェリーヌがユレイヤの元を訪れることはなくなった。
 ユレイヤの生活は平穏そのもので、自分が敵国の姫であることを忘れてしまうほど。


(だけど、もうすぐあの日がやって来る)


 ユレイヤは大きく深呼吸をする。
 前世の自分が亡くなった日。リヴェルトとともに公務に赴く日が近づいている。

 理由をつけて同行をしないという手もあるだろうが、王子妃として手厚い待遇を受けている今、割り振られた公務ぐらい、きちんとこなしたいとユレイヤは思う。


「ユレイヤ、準備はできたか?」

「ええ、リヴェルト様」


 ノックとともに、夜会服に身を包んだリヴェルトが部屋に入ってくる。ユレイヤはリヴェルトを出迎えると、満面の笑みを浮かべた。


「リヴェルト様、素敵なドレスをありがとうございました」

「いや……妻にドレスを贈るのは当然のことだ」


 リヴェルトはそう言うが、ユレイヤはついつい『当然のことじゃない』と返してしまいたくなる。
 前世ではリヴェルトからドレスを贈られることも、侍女たちが自ら支度を手伝ってくれることもなかった。リヴェルトの言う当然は、ユレイヤからすればまるで奇跡のようで、涙が込み上げそうになる。


「行こうか」

「ええ」


 微笑み合い、二人はユレイヤの部屋を出た。

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