【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?
***


 夜会から数日が経った。チェリーヌは投獄され、ユレイヤは再び平穏な日々を送っている。

 今日は前世でユレイヤが亡くなった日――リヴェルトとの公務の日だ。馬車がガタゴトとほのかに揺れる。しばらくして、ユレイヤはリヴェルトと一緒に馬車を降りた。前世でも立ち寄った神殿だ。
 礼拝堂に入ると、二人はしばらく無言でたたずむ。沈黙を破ったのはユレイヤだった。


「リヴェルト様、あなたは――あなたも前世のことを覚えているのですね」


 リヴェルトが静かに息を呑む。それから、ユレイヤの手をそっと握った。


「……ああ」


 返事を聞きながら、ユレイヤの瞳に涙が滲んだ。

 リヴェルトに前世の記憶があったから、馬車の事故を引き起こしたのは誰かを事前に探ることができた。彼は事故を未然に防ぎ、犯人を捕まえるために、ユレイヤの知らないところで動いてくれていたのだろう。


「助けてくださってありがとうございます」

「当然だ……俺たちは夫婦なのだから」


 繋がれた手のひらから、じわりと温もりが広がっていく。ユレイヤはゆっくりと首を横に振った。


「けれど、前世の私たちは全然、夫婦らしくなくて」

「わかっている。俺が間違えたから……だから、君にはずっと辛い思いをさせてしまった」


 リヴェルトはそう言うと、ユレイヤの肩に頭を預ける。泣き顔を見られたくないのだろう――彼の体は小刻みに震えていた。


「俺が最初から君を大事にしていたら、使用人たちはユレイヤに冷たい言葉を浴びせたりはしなかった。部屋も、侍女も、ドレスも――なんとか待遇を改善しようとしたんだ。けれど、一度凝り固まってしまった偏見を覆すことはできなくて。ユレイヤ、ごめん。本当に、すまなかった」


 言葉から、声音から、リヴェルトが心から悔やんでいるのが伝わってくる。ユレイヤは微笑みながら「はい」と返事をした。


< 130 / 131 >

この作品をシェア

pagetop