【短編集】あなたのためを思って言っているのよ?
「なんだよそれ。……なんなんだよ!」


 ラーベルが大きく地団駄を踏む。ようやく自分の理想が叶ったはずなのに――いや、叶ったからこそ腹が立った。ラーベルはアダリーシアを睨みつけ、掴みかかった。


「できるなら、最初からそうすればよかっただろう!? どうして最初からそうしなかった!? そうすれば僕は君を……」

「しませんよ。なんで私がラーベル様のために、自分を殺さなきゃいけないんですか?」


 アダリーシアはいつもの口調、いつもの声音に戻ると、肩をポキポキと鳴らす。


「いいですか、ラーベル様。事前にこたえさえわかっていれば、他人の期待にこたえることはそう難しいことではありません。私はこれまで、多少なりともあなたの期待にこたえる努力をしてきました。……まあ、あなたには満足していただけませんでしたけどね。だけど、私は今後、あなたの期待にこたえるつもりはないんです」

「期待にこたえるつもりがない?」


 今や会場中の視線が二人に注がれていた。
 イディアも二人のそばまでやってきて、オロオロと視線を彷徨わせている。


「なんでだ? 僕たちはもうすぐ結婚するんだから、そのまま僕の理想どおりでいればいいだろう?」

「お断りです。というか、ラーベル様と私が結婚することはなくなりましたし」

「どういう意味だ?」


 アダリーシアはラーベルの耳元に口を近づけると、声を潜めた。


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