利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~

救いの手を差し伸べたのは

小川(おがわ)君。君には迷惑しているんだ」

 大きな病院のたくさんいる医療事務のひとりでしかない私が、なぜ院長室に呼び出されたのか。悔しいけれど、その理由には心当たりがある。

 大学を卒業してから約五年間。私はこの久世(くぜ)総合病院の医療事務として、まじめに働いてきた。至らないところはあっただろうけれど、患者やその家族に精いっぱい寄り添ってきたつもりだ。

「息子の文也(ふみや)深山(みやま)のお嬢さんからは、君の振る舞いについては何度も抗議されている。ふたりが婚約しているのは、君も知っているね?」

「は、はい」

 厳しく非難する目を向けられ、怯みそうになる。

「深山教授のお嬢さんとの縁談が白紙になれば、この病院にどれだけの損失を与えるか。まあ、事務員にすぎない君には知る由もないかもしれんが」

 皮肉をたっぷりと込めた口ぶりだ。
 私の代わりなどいくらでもいるとも、暗に仄めかされているのはわかった。

「どうするべきか。身の振り方はわかっているね」

 両脇で握りしめた手に、さらに力がこもる。

 院長の息子で内科医の久世文也は、女性受けのする甘い顔立ちをしている。その立場と容姿を利用して、複数の女性と遊んでいることはそれとなく知られていた。

 同時に、彼が大学教授の娘と婚約していることも、院内で周知されている。

 そんな久世文也がなんの前触れもなく私に声をかけてきたのは、今から三カ月ほど前になる。





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