利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
『雪乃ちゃんってさあ、色白でかわいいよね。この真っすぐな黒髪……』

 そう言いながら、断りもなく髪に触れられる。

『綺麗だね。真面目な雪乃ちゃんそのものって感じ』

 たしかに母親譲りで色白だし、セミロングの黒髪は一度も染めたことがないから傷みはない。
 それは私の自慢でもあるけれど、この人が目を留めるような美貌など持ち合わせていない。

 身長は平均そこそこだし、プロポーションもいたって普通。父親に似たたれ目と少し薄い唇は愛嬌があると人に言われるけれど、アンバランスな気がしてならない。

『さ、触らないでください。こういうの、困りますから』

 軽い調子で何度も声をかけてくる彼を振り払い、きっぱりと断り続けてきた。

 それでもしつこく絡まれてすっかり困り果てていたが、こんな話は誰にも打ち明けられない。女性に人気の高い彼に声をかけられたなんて相談しようものなら、周囲からの反感を買ってしまうからだ。前に同じようなことがあったとき、非難されたのは女性の方だった。

 気の多い人だ。どうせすぐにあきるに違いない。
 そう考えていた私は、あまりにも甘かった。

 髪に触れられ手を握られ。さらには壁際に追い込まれて、関係を迫られるまでになるのに時間はかからなかった。

『俺の婚約者さあ、気が強くて我がままで。ほんっと、合わないんだよね。ねえ、雪乃ちゃん。君さえよければ、俺の愛人にならない? 君みたいな従順そうな子、俺のタイプなんだ』

 ありえないと、ひたすら首を横に振る。

『ある程度の贅沢をさせてあげるし、そうだな。君のために、マンションを用意してあげるよ』

 こんな壁ドンなんて、まったくときめかない。

 さらに顎に手をかけられて、いよいよどうしたらいいのかと困り果てていたそのとき。

『なにをしているのかしら?』

 最悪のタイミングを、彼の婚約者に目撃されてしまった。




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