利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
「どうしてほかの女の名前を呼ぶのよ」

「君と俺の間には、なんの関係もない。それに、接近禁止命令が出されているはずだが? こんなふうに付き纏われるのは、迷惑だ」

「少し会いに来なかったからって、そんなふうに言わないで。周りが意地悪で、私を雅樹の所へ行かせてくれなかったの。ねえ、機嫌を直してよ」

 だめだ、話が通じない。雅樹さんも、彼女の異常さに眉をひそめている。

 収集がつかなくなりかけていたが、見ていた人が呼んでくれたようで複数の警備員が近づいてくる姿に安堵する。

「どうかされましたか?」

 それから彼女を引き渡し、私たちは事情を説明した。

 雅樹さんは、その場で弁護士に連絡を入れている。そこでのやりとりで、彼は被害届を提出すると決めた。
 場合によっては、私に対する脅迫行為も罪に問われるようだ。西崎さんは接近禁止令も破っているため、少なくとも拘留されることになる。

「これ以上、雪乃を危険に晒すわけにはいかない。徹底した対応をする」

 官舎に引っ越してからも、彼がなにもしていなかったわけじゃない。休みの日には私の外出に常に付き添ってくれたし、繰り返し警察や弁護士に相談している。おかげで今回の出来事もスムーズな対処ができそうだ。

「せっかく楽しんでいたのに、すまなかった」

「ううん。悪いのは雅樹さんじゃないから」

「今日はもう、帰るか?」

 私がいくら雅樹さんのせいじゃないと言っても、彼は眉を下げて申し訳なさそうな顔をする。

 ここで帰ることに同意したら、きっと重い空気を引きずったままになるだろう。
 誰かに理不尽に責められて、なにもしていない側がそんな思いをするなんて絶対に間違っている。
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