利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
「雅樹さん」

 予定通りショッピングを楽しもうと言おうとしたそのとき。近くからピアノの演奏が聞こえて視線を巡らす。彼もそれに気づいたようで、同じように振り返った。

「ねえ、聴きに行こう?」

「ああ」

 あえて明るく誘った私の意を汲んで、雅樹さんが手をつないでくれる。

 すぐ近くのイベントスペースで、ピアノ教室に通っている子どもたちの発表会が行われていた。
 幼稚園くらいの子だろうか。小さな手で一生懸命演奏をする姿がかわいらしい。
 中には恥ずかしがってお母さんにへばりついている子もいる。

 微笑ましい様子に、さっきまでの殺伐としたやりとりを忘れて自然と笑みが浮かぶ。弾ききったときは、精いっぱいの拍手を贈った。

「雪乃」

「ん?」

 隣を見上げると、雅樹さんは穏やかな笑みを浮かべていた。きっと私も、彼と同じような表情をしていると思う。

「もし俺たちに子どもができたら……」

「え?」

 ドキリと鼓動が跳ねる。

「楽器でもなんでも、好きなことをたくさんさせてやりたいな」

 家庭を持つことすら躊躇していた雅樹さんが私と本当の夫婦になり、さらに子どもまで望んでくれる。それがうれしくて、たまらず頬が緩む。

「パパがピアノを教えるなんて、素敵じゃない?」

 自分で言っておきながら、ちょっと恥ずかしくなる。

 わずかに目を見開いた彼は、それから幸せそうに微笑んだ。

「俺は、雪乃との子どもがほしい」

 今度こそストレートに言葉にした雅樹さんに、顔を熱くしながらうなずき返した。




 END
< 91 / 91 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:162

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
「その優しい内面に、どうしようもなく惹かれた。君のことが、好きなんだ」 高宮 蓮 大手ホテル業を営む会社の後継ぎ × 藤沢 唯 両親や双子の姉に、常に軽んじられてきた令嬢 格上の家から持ち込まれた縁談。 それに手を上げたのは、姉のはずだったのに…… 「一年間の花嫁修業なんて、やってらんないわよ!」 条件の良い相手だから逃したくはないが、面倒事は嫌。 そんな姉の陰謀で、花嫁修業の間だけ婚約者を演じることに。 「結婚するのなら、君しかありえない」 姉と同じ見た目ではなくて、自分の内面を見てくれた彼にどうしようもなく惹かれてしまい…… 一線を越えてしまった結果、まさかの妊娠が発覚。 けれど、一緒にいられる時間はあと少しだけ。 *こちらの作品は、マカロン文庫から11月に刊行される予定です。 改稿前のものになりますので、内容は大きく異なります。
結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
  • 書籍化作品
表紙を見る 表紙を閉じる
「もう無理。婚約は、破棄させてもらうから!」 職場のエントランスで公開処刑されていたのは、勤め先の社長。 普段から、厳格で冷たそうな人だと思っていたけれど…… 「……話はそれだけか」 って、婚約破棄の原因はあなたにあるようですけれど? かける言葉はそれだけ? まさかの謝罪も弁明もなし。 こんな冷血漢は、絶対にない!! そう思っていたのに、 とある理由で社長と契約結婚することになってしまい…… 進藤 冬馬 グランドコスメ社長 × 青山 瑞希 秘書 こちらの作品は、8月にベリーズ文庫から刊行予定です。 改稿前のものになりますので、文庫版とは内容が異なっています。
婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
  • 書籍化作品
表紙を見る 表紙を閉じる
実川 凪(じつかわ なぎ) 実父と義母、義妹に虐げられる、冷遇される社長令嬢 × 本条 凌也(ほんじょう りょうや) 医療機器メーカーの社長 家族に冷遇され、婚約者にはいいように利用され。 挙げ句に「いらない」と棄てられた私を救ってくれたのは、 冷淡で、けれど不器用な優しさで守ってくれる人だった。 こちらの作品は、ベリーズ文庫2026年4月刊として刊行予定です。 修正前のものになりますので、書籍版とは内容が大きく異なる箇所があります。 書籍版では番外編も加わる予定ですので、そちらもお楽しみいただければと思います。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop