利害一致の同情婚 ~カタブツ航空自衛官は契約妻を溺愛する~
「雅樹さん」

 予定通りショッピングを楽しもうと言おうとしたそのとき。近くからピアノの演奏が聞こえて視線を巡らす。彼もそれに気づいたようで、同じように振り返った。

「ねえ、聴きに行こう?」

「ああ」

 あえて明るく誘った私の意を汲んで、雅樹さんが手をつないでくれる。

 すぐ近くのイベントスペースで、ピアノ教室に通っている子どもたちの発表会が行われていた。
 幼稚園くらいの子だろうか。小さな手で一生懸命演奏をする姿がかわいらしい。
 中には恥ずかしがってお母さんにへばりついている子もいる。

 微笑ましい様子に、さっきまでの殺伐としたやりとりを忘れて自然と笑みが浮かぶ。弾ききったときは、精いっぱいの拍手を贈った。

「雪乃」

「ん?」

 隣を見上げると、雅樹さんは穏やかな笑みを浮かべていた。きっと私も、彼と同じような表情をしていると思う。

「もし俺たちに子どもができたら……」

「え?」

 ドキリと鼓動が跳ねる。

「楽器でもなんでも、好きなことをたくさんさせてやりたいな」

 家庭を持つことすら躊躇していた雅樹さんが私と本当の夫婦になり、さらに子どもまで望んでくれる。それがうれしくて、たまらず頬が緩む。

「パパがピアノを教えるなんて、素敵じゃない?」

 自分で言っておきながら、ちょっと恥ずかしくなる。

 わずかに目を見開いた彼は、それから幸せそうに微笑んだ。

「俺は、雪乃との子どもがほしい」

 今度こそストレートに言葉にした雅樹さんに、顔を熱くしながらうなずき返した。




 END
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