バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた
翌朝。
 アラームが鳴る前に目が覚めてしまった。
 眠った気はしないのに、夜が終わっていることだけは分かる。

 寝不足のままスマホを開くと、通知がいくつも溜まっていた。
 画面を見た瞬間、胸が少しだけざわつく。
 無意識に、指が一番下までスクロールしていた。

 配信の感想、心配の言葉、いつも通りのやり取り。
 「大丈夫?」「昨日の配信よかったよ」
 見慣れた言葉たちが並ぶ中で、なぜか一通だけ、空気が違って見えた。

 その中に、ひとつだけ少し違う温度のメッセージがあった。

『昨日は、急にごめん。
無理してないなら、それでいい』

 短い文章。
 感情を押し付けることも、踏み込むこともしてこない。
 それが、逆に心に残った。

 たった二行なのに、昨日の夜の静けさが一気に蘇る。
 声の低さも、間の取り方も、思い出せてしまうのが困った。

 それなのに、胸がきゅっとなる。

 すぐ返せばいいはずなのに、指が止まる。
 既読をつけるのも怖くて、しばらく画面を伏せた。

『ありがとう。
昨日は助かった』

 そう返すまでに、少し時間がかかった。
 本当はもっと書けた。
 でも、これ以上何かを足したら、気持ちまで渡してしまいそうで。

 軽く見せたかったのに、どの言葉も重く感じる。

 送信してから、画面をじっと見つめる。
 まだ返事が来ていないのに、心臓だけが先走る。

 既読がつく。

 その表示を確認した瞬間、息を止めていたことに気づいた。

『それならよかった』

 それだけ。
 余計な言葉も、続きもない。

 なのに、ほっとしてしまう自分がいた。
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