バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

第2話 声が残る夜

通話を切ったあとも、しばらくイヤホンを外せなかった。

 画面は暗くなっているのに、耳の奥だけが騒がしい。
 さっきまで、確かに誰かの声がそこにあった。
 息遣いも、言葉の間も、はっきり覚えているのに、もう触れられない距離に戻ってしまった気がして、胸の奥が落ち着かなかった。

 イヤホンのコードを指先でなぞる。
 外してしまえば、全部が夢だったみたいに消えてしまいそうで、怖かった。

「……夢じゃ、ないよね」

 自分に言い聞かせるように呟く。
 声に出した瞬間、少しだけ現実味が増した気がした。

 通知を何度も見返して、履歴を確認して、それでもまだ信じきれない。
 通話履歴に残った名前を見て、やっと小さく息を吐く。

 確かに、あった。
 消えていない。

 声。

 あの人の声は、思っていたよりずっと低くて、落ち着いていて。
 配信で聞く誰かの声とは違って、無駄な装飾がなくて、でも冷たくもなかった。

 派手でも、甘くもないのに、不思議と安心する響きだった。
 言葉を選ぶたびに、少し間が空くところが、妙に印象に残っている。

 それが、胸の奥に残り続けている。

 布団に潜り込んでも眠れなかった。
 目を閉じると、暗闇の中で声だけが浮かび上がる。

『今行かないと、いなくなりそうな気がして』

 あの言葉を思い出すたび、胸がきゅっと縮む。
 そんなふうに思われた覚えは、今まで一度もなかった。

 そんなこと、言われたことがなかった。

 誰かに必要とされている、なんて。
 それも、何も見せていない相手から。
< 5 / 11 >

この作品をシェア

pagetop