それでは喜んで“傾国の悪女”となりましょう~欲に溺れた哀れな皆様、いつまで私のことを利用できるとお思いですか?~
プロローグ~誘拐と救出劇
――ドガン!
ドアが内側に向かって勢いよく開く。
「グハッ!?」
ドアノブに手を置いていた覆面男のひとりが、開いたドアに当たって吹っ飛ぶ。
「「なんだ!?」」
私に視線を向けていた他の覆面男ふたりが、一瞬遅れて警戒の声を揃え、ドアを見やった。
「……へ?」
そして覆面男たちとは違い、ひとりだけ顔を露わにしている男は、緊張感のない声を出す。床に座り込んだまま、覆面男たちとは対照的に、のろのろとドアの方へと顔を向ける。
私に見下ろされているこの男は、とある貴族の嫡男で、次期侯爵。私が見下ろし始めてからずっと、なにかを期待する、ある種の下心を孕んだ視線を私に向けていた。
清楚なドレス姿の私は、ドレスに不釣り合いな、手首から外して右手に引っかけていた豪奢なブレスレットを、ドレスの隠しポケットに入れる。反対の手で、顔にかかりそうな、青みのある白金髪を耳にかけてから――。
「早かったのね。さすがよ、私のかわいい護衛さん」
ドアの向こうから泰然と現れた、金髪長身の男――私の護衛であるハチを褒めた。
ハチの顔は整っていて、体つきは逞しい。魅了され、密かな劣情を煽られる女性も多い。
「…………」
けれど今のハチは、どうだろう。鬼の形相だ。無言で剣を抜き、大半の女性が泣いて逃げ出しそうな気迫を発している。赤紫色の瞳には、剣呑さが見て取れる。
無理もない。だって私はこの場にいる男たちに、誘拐されたのだから。
けれど誘拐犯はもうひとりいたわ。おそらく外で見張りをしていたはずよね? まさか殺してないわよね?
「「貴様! 覚悟しろ!」」
なんて思っていれば、吹っ飛んで気を失った仲間を地面に転がしたまま、覆面男ふたりが剣を抜いてハチを襲う。
――ゴッ、ゴッ。
「「ハグァッ」」
けれどひとりはハチが握っていた剣の柄、もうひとりはハチのエルボーで、首の後ろを殴打されて地面へと伏した。
ほぼ同時にふたりも倒してしまうだなんて。うちの護衛が強すぎる。
「カエナ。ソレ、踏んだのか?」
剣呑だった瞳に殺気を漲らせたハチが、未だに座り込み続ける次期侯爵へ殺意まみれの眼光を向けつつ、私に尋ねた。
ハチの殺意で顔色を青くした次期侯爵は、恐怖のせいか絶句し、体を震わせる。
「軽く蹴っただけ。まだ踏んでいないわ。一応言っておくけれど、有効活用するから殺しちゃダメよ?」
「……そうか」
ハチが不服そうに眉根を寄せた後、短く頷いたと思ったら、瞬きする間に次期侯爵の脇腹を蹴り飛ばしていた。
ハチったら、いつの間にこんな近くに来ていたの?
「ッガッハッ……」
低くくぐもった呻き声を出して転がった次期侯爵は、以降、ヒューヒューと息をするだけで、言葉を発さなくなっていた。
死んでいなくて、なによりね。
ドアが内側に向かって勢いよく開く。
「グハッ!?」
ドアノブに手を置いていた覆面男のひとりが、開いたドアに当たって吹っ飛ぶ。
「「なんだ!?」」
私に視線を向けていた他の覆面男ふたりが、一瞬遅れて警戒の声を揃え、ドアを見やった。
「……へ?」
そして覆面男たちとは違い、ひとりだけ顔を露わにしている男は、緊張感のない声を出す。床に座り込んだまま、覆面男たちとは対照的に、のろのろとドアの方へと顔を向ける。
私に見下ろされているこの男は、とある貴族の嫡男で、次期侯爵。私が見下ろし始めてからずっと、なにかを期待する、ある種の下心を孕んだ視線を私に向けていた。
清楚なドレス姿の私は、ドレスに不釣り合いな、手首から外して右手に引っかけていた豪奢なブレスレットを、ドレスの隠しポケットに入れる。反対の手で、顔にかかりそうな、青みのある白金髪を耳にかけてから――。
「早かったのね。さすがよ、私のかわいい護衛さん」
ドアの向こうから泰然と現れた、金髪長身の男――私の護衛であるハチを褒めた。
ハチの顔は整っていて、体つきは逞しい。魅了され、密かな劣情を煽られる女性も多い。
「…………」
けれど今のハチは、どうだろう。鬼の形相だ。無言で剣を抜き、大半の女性が泣いて逃げ出しそうな気迫を発している。赤紫色の瞳には、剣呑さが見て取れる。
無理もない。だって私はこの場にいる男たちに、誘拐されたのだから。
けれど誘拐犯はもうひとりいたわ。おそらく外で見張りをしていたはずよね? まさか殺してないわよね?
「「貴様! 覚悟しろ!」」
なんて思っていれば、吹っ飛んで気を失った仲間を地面に転がしたまま、覆面男ふたりが剣を抜いてハチを襲う。
――ゴッ、ゴッ。
「「ハグァッ」」
けれどひとりはハチが握っていた剣の柄、もうひとりはハチのエルボーで、首の後ろを殴打されて地面へと伏した。
ほぼ同時にふたりも倒してしまうだなんて。うちの護衛が強すぎる。
「カエナ。ソレ、踏んだのか?」
剣呑だった瞳に殺気を漲らせたハチが、未だに座り込み続ける次期侯爵へ殺意まみれの眼光を向けつつ、私に尋ねた。
ハチの殺意で顔色を青くした次期侯爵は、恐怖のせいか絶句し、体を震わせる。
「軽く蹴っただけ。まだ踏んでいないわ。一応言っておくけれど、有効活用するから殺しちゃダメよ?」
「……そうか」
ハチが不服そうに眉根を寄せた後、短く頷いたと思ったら、瞬きする間に次期侯爵の脇腹を蹴り飛ばしていた。
ハチったら、いつの間にこんな近くに来ていたの?
「ッガッハッ……」
低くくぐもった呻き声を出して転がった次期侯爵は、以降、ヒューヒューと息をするだけで、言葉を発さなくなっていた。
死んでいなくて、なによりね。
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