欲望と煩悩の狭間で初恋の彼女を愛でる
少しグラッとしかけたが、幸成は落ちることはなく、お神輿にしがみついていた。
「あっ」
梨花子は思わず声に出していたが、観客の拍手でホッとして梨花子も拍手をした。
「危なかったな、さすが幸成さん」
ピピッと笛をリズム良く吹き、担ぎ手のリズムも元に戻った。
6体のお神輿が円状になり、市長の挨拶が始まった。
市長も朝から色んな地域を周り、挨拶をしていき、この地区のかきくらべにも毎年恒例で来てくれるのだ。
梨花子は市長の車の側に立っていた1人の男性の所にトコトコと小走りで走って行った。
「三瀬(みせ)くん、お疲れ様」
「あ、お疲れ様、笹本さん」
車の側に立っていたのは梨花子の同期の三瀬隼人(みせはやと)くんだった。
総務部にいるが、市長の専属運転手ではない。
三瀬くんは専属運転手の方がお休みの時や、時間が長くなるときの交代として兼業している。
今年は専属運転手の家が組長という事でお祭りに参加しないといけなくて、三瀬くんが運転手をすると1週間ほど前に市役所内で会った時に聞いたのだ。
「ここで終わり?」
「あと1箇所ある、明日もあるし」
「大変だね」
「まあ、僕はお神輿は普段も担がないから大丈夫だよ」
「そうなんだ、人が足りてるって事?」
「そうだね、まだベテランが大勢いる」
市長の挨拶が終わり、各お神輿の代表に握手をしていた幸成は梨花子を見つけた。
「誰だ?あいつは…さっきまで怜士といたのに」
幸成はお神輿に乗った時に梨花子の地区の方を見て、梨花子を見つけていた。
市長が車の方に向かう後ろ姿の奥には男と話す梨花子がいた。
幸成は思わず市長の後ろを歩いていた。
「じゃあ、お祭り楽しんで」と三瀬は梨花子にむかって声をかけて運転席に座りエンジンをかける。
「気をつけてね」と梨花子も手を振り、車から離れた。
「笹本」
振り向くと幸成が立っていた。
「あっ、仙道くん、お疲れ様」
幸成は梨花子の手を持ちお神輿の方に連れていこうとした時、視線を感じ運転席の三瀬と目が合った。
幸成は梨花子の肩に手を回すと三瀬にみせつけるように歩いて行った。
「ちょっと、歩きにくい」
梨花子は離してと幸成の胸を押して離れた。
「どうだった?俺の地区の神輿」
「危なかったね(笑)」
「あれくらいならセーフじゃね?」
「怜士とも言ってたんだもん」
「全く怜士は先輩を立てろよな」
「褒めてたよ(笑)」
「そっか」
「幸成ーーー」
聖司が走ってきた。
「どこ行ってたんだよ、公民館に戻るぞ」
「おぅ」