欲望と煩悩の狭間で初恋の彼女を愛でる

「また会うなんてね」

「笹本は市役所に勤めてんの?」

「うん、そうだよ、社会福祉課」

「……笹本らしい(笑)」

「そう?」

エレベーターが降りてきて梨花子は幸成を促して7階のボタンを押した。

「なぁ、話したいんだけど仕事終わってから時間取れねぇ?」

「時間?」

「うん、時間、メシでも食いに行かねえか?」

「ご飯か…」

「都合悪い?まだ昨日帰ってきたばかりで笹本としか会ってないからさ」

梨花子は考えているようだった。

「1度帰ってもいいよ、車で迎えに行く」

「まあ、それなら…」

「何時がいい?」

「19時くらい」

「OK、スマホある?」

「ごめん、席に置いてきてる」

エレベーターから降りると梨花子は住宅課にメモとペンを借りて自分のスマホの番号をメモして幸成に渡した。


よし!来て良かった。

まさか市役所に勤務してるとは…

ついてる、笹本の番号だ。

メモを貰った時、もう1枚メモをもらい、幸成の電話番号を書いて梨花子に渡していたのだ。

「ありがとう、帰ったら連絡するね」

「わかった」

「じゃあ、私は仕事に戻るね」

幸成はメモをポケットに入れて住宅課の担当の人に要件を話すと早々と家に戻り、時間まで貰った資料を読んだのだった。

そして着替えてスマホを前に緊張していた。

この俺が女と会うのに緊張?

久しぶり過ぎてかな?

あれ?笹本の家ってどこだ?

急いでマップを確認しているとスマホの音が鳴った。

「わぁ、びっ……くり…はぁ……もしもし?」

「あっ、仙道くん?」

「うん、おつかれ」

「もう少ししたら出れるけど、どこかで待ち合わせする?」

「いや、向かえに行くけど道が……」

「ちょっと分かりにくいかも…あのね……」

幸成は家を教えて貰って白いスポーツカーに乗り込んだ。

幸成の実家は山の方で、ブルルンッブルルンッとエンジン音を鳴らしながら山を降りて、梨花子の海沿いの家に向かったのだった。


梨花子は玄関前で待っていた。

いつも砂浜に散歩に行く時は車が通れない細い坂道を降りて海へ行く。

だから車は違う道から来なければならないのだ。

遠くから低いエンジン音が聞こえてきた。

白いスポーツカーは梨花子の前で停まった。

「待った?」

「ううん」

「乗って」

幸成は助手席のドアを開けた。

梨花子が少し顔をしかめたのを幸成は気づかなかった。

「ん?どうかした?」

梨花子が乗らないので幸成は聞いた。

「恥ずかしいし、目立つ」

「何でさ?」

「都会ならいいけど、こんな田舎で…」

「かっこよくない?」

「えー、チャラい……」

「はぁ?何だよチャラいって」

「昔から性格はチャラいと思ってたんだもん」

梨花子は助手席のドアを閉めた。

「スクーターで行く、今日はお酒呑まないし」

「何だよ迎えに来たのにさ」

「じゃあ、行くのやめる」

梨花子はそう言うと家の中に入ってしまった。

幸成はスマホを出して梨花子に電話しようとしたがかけるのをやめた。

「全く……キャンセルかよ」

喧嘩なんてしたくないのに……

幸成は車に乗るとエンジン音をブォンブォンとふかしながら梨花子の家から遠ざかって行った。
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