塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
「あ……いや、えっと」

 険しい表情のレナルドに短く問われて、セヴランはおろおろと視線をさまよわせる。ラシェルに対しては強気でも、侯爵であるレナルドには強く出られないのだろう。もごもごと口の中で何かを言うばかりのセヴランを見て、レナルドは話を続ける必要はないと判断したらしい。

「会議が早く終わったから、もしかして間に合うかなと思って来てみたんだが……。もうドレスの試着は終わった?」

 強くラシェルを抱き寄せながら、レナルドは甘く微笑む。セヴランに向けるものとは全く違うその表情に、ラシェルの頬が熱を持った。

「え、えぇ。素敵なドレスでした」

「そうか。見られなかったのは残念だけど、仕上がりを楽しみに待つことにしよう。あれは、俺のためだけにラシェルが着てくれるドレスだからね」

 にっこりと笑いながら、レナルドはゆっくりと顔を近づけてきた。この流れはキスをするに違いないと気づいて、ラシェルは思わず両手で彼の唇を塞いでしまった。さすがに外で、目の前にセヴランがいる状況で、そういうことをするのは恥ずかしい。

 だがレナルドは、不満そうに眉をひそめた。

「ラシェル、どうして止めるの? いつもこうやってキスしているだろう」

「だって、ここでは恥ずかしい……です」

「恥ずかしがる顔も可愛いけど、俺としては愛する妻に触れあいを拒絶されると傷つくし、嫌われているんじゃないかって思ってしまうな」

「嫌ってなんか……」

「なら、挨拶のキスくらい構わないだろう」

 レナルドはラシェルの両手を掴むと、再び顔を近づけてくる。視界の隅に、セヴランが目を剥くようにしてこちらを見ていることに気づいて、ラシェルは思わず強く顔を背けた。頬を、微かにレナルドの唇が掠める。
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