塩対応だった旦那様が記憶喪失になったら、執着溺愛して離してくれなくなりました
 つけ加えた言葉の意味はきっとレナルドには伝わらないだろうが、手を繋いだことで彼の表情は少し緩んだような気がした。

 だが、レナルドは苦しげに唸るとラシェルの手を離してしまった。

「……っ、ごめん。俺は、きみになんてことを……」

「レナルド様?」

「こんな……嫉妬にかられて、きみを傷つけるなんて……」

 震える声でそう言ったレナルドは、ベッドから下りるとあっという間に服を整えた。もともとほとんど服を乱していなかったので、まるで何もなかったかのように見える。

「……本当に、すまない。頭を冷やしてくる」

 それだけ言い残して、レナルドは寝室を出て行ってしまった。

 呆然とその背中を見送ったラシェルは、しばらくしてよろよろとベッドから立ち上がった。激しく抱かれたせいで消耗しているが、しばらく休めばよくなるだろう。それよりも、この酷い有様を早くなんとかしなければならない。

 手櫛で髪を整え、ラシェルは床に散らばった下着やドレスを拾い集める。強引に引っ張られたせいか下着のリボンはほつれているし、ドレスに至っては少し裂けている。

 あんな荒々しいレナルドは初めて見たなと思いつつ、ラシェルはガウンを羽織ると浴室へと向かった。

 浴室の鏡で自分の姿を確認したラシェルは、驚きに思わず小さな声をあげてしまった。

「……すごい、痕」

 首筋に残る赤い痕は、噛みつかれた時と吸いつかれた時のもの。それに似たような痕が、全身あちこちに散っているのだ。
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